「産後」カバーし売上高60億円へ【岩本眞二 エンジェリーベ代表取締役社長】

2012年4月に健康コーポレーションの子会社となった、マタニティー通販の老舗であるエンジェリーベ。ところが、近年は売り上げが右肩下がりで減っており、健康コーポレーションによる子会社化後も業績は悪化する一方だった。そこで、健康コーポレーションでは立て直しを図るべく、スタイライフ創業者の岩本眞二氏を副社長として2013年12月に招聘(しょうへい)。さまざまな改革を推し進め、単月黒字化を達成した。11月21日には社長に昇格、さらには婦人服メーカー・馬里邑(2013年8月に健康コーポレーションが子会社化)の副社長も兼務する岩本氏にこれまでの取り組みを聞いた。

スポンサードリンク

カタログ廃止など「大手術」で単月の営業黒字を達成

ネット中心に舵切る

――スタイライフの社長だった2011年以来のアパレル業界への復帰となります。やはりこだわりがあったのでしょうか。

それはいろいろな人から言われるんですが、特にアパレルにこだわりがあるわけじゃないんですよ。スタイライフを立ち上げたのは確かですが、ニチメン(現・双日)にいた頃も繊維とは関係ない部署にいて、電子部品の販売などをやっていたわけですし、スタイライフ時代に買収して一時期社長をしていたハイマックス(現・豆腐の盛田屋)も化粧品会社ですからね。私が関心あるのは、ネットで物を売ることなんです。ただ、皆さん「ファッションに強い」というイメージがあるようで、ここでもエンジェリーベの面倒を見ることになりました(笑)。

――エンジェリーベ入社の経緯は。

健康コーポレーションの瀬戸健社長に、アパレル子会社を見てほしいと言われたからです。いろいろと縁あって引き受けることになりました。

――業績不振のエンジェリーベを立て直すために呼ばれたわけですが、実際に現場を見られてその理由をどう分析しましたか。

一言でいえば、時代の流れに付いていけていなかったということでしょうね。副社長に就任し、損益計算書を見たら、あまりの悪さにびっくりしたというのが正直なところです。何しろ、4期連続で赤字を出していたわけなので。これは大変だなと思いましたよ。結局、これまでは売り上げを増やそう増やそうと掛け声ばかりだったのではないでしょうか。当然、売り上げが目標に達しなけれ
ば損益分岐点にも行きませんから、そんなこんなで赤字が続いていたのでしょう。

――副社長就任後はどんな施策に取り組んだのですか。

大手術をしないと黒字にならないと思いました。一番重要なのはコスト削減です。まず、本社と物流拠点が横浜市の同じ場所にあったのですが、本社を品川区に、物流拠点を川崎市に移転し、コストを減らしました。さらには実店舗も2店舗閉鎖し、3店舗としています。そして、主力事業であるマタニティーカタログの廃止とネット販売への特化を指示しました。

――カタログ廃止について、社内からはどんな反応がありましたか。

大反対されましたね。「そんなことをしたら売り上げが半分くらいになる」という声もありました。カタログが赤字の原因になっているのは明らかでしたが、カタログ通販からスタートした会社なので、カタログをやめるという発想が出てこなかったわけです。もちろん、いきなり「廃止する」とはいえないから、データ的な裏付けが必要となります。

――その裏付けとは。

顧客を分析したところ、マタニティーカタログを請求する人の80%はネットから、さらに商品を購入した人の90%はネットからの注文でした。そこで、「売り上げは落ちたとしても10~20%程度で、黒字に転換する」と取締役会で説得しました。ただ、本心では売り上げは増えるだろうと思っていたんですよ。

――それはなぜですか。

これはネットマーケティングをやっていた人なら分かると思いますが、購入に至るまでのページの階層が深くなるほどコンバージョン率が下がります。エンジェリーベの場合、カタログをネットで注文し、カタログを読んでからネットで購入していた人が多かったわけで、手間がかかる分、コンバージョンに影響が出ていると分析したわけです。

ベビーカタログも廃止へ

――マタニティーカタログを14年の春夏号で廃止し、9月からネット販売のみにしたわけですが、成果は。

マタニティー事業の売り上げは落ちるどころか、9月は前年同月比で40%増となりました。通販サイトを刷新して使い勝手を良くしたことも効いています。全社売上高に関しても、店舗を2店閉鎖したにも関わらず、中間期で約30%の増収となり、利益面でも9月、10月と連続して営業黒字が達成できました。

――売り上げが回復した要因をどう分析していますか。

これまでも商品力に問題があったわけではなく、マーケティングが悪かったということ。カタログ通販で始まった会社なので社員に「ネットだと物が買いにくい」という思い込みがあったのではない
でしょうか。つまり、「いいカタログを作れば物は売れるんだ」といわんばかりのマーケティングをしていた。ただ、これは当社に限った話ではなく、パソコンやスマートフォンの画面では服の生地や質感がきちんと表現できるわけがない、と思っているカタログ通販の関係者はまだまだ多いんですよ。

――カタログには一覧性などの点ではネットへの優位性はありますね。

確かに、写真から商品の良さを訴えるという点では、カタログの方が優れている場合もあるでしょう。そのため、訴求力はネットよりもカタログの方があると現場は思っていたわけです。ところが「カタログから注文が来ている」というのは勘違いで、実際にはカタログは補完的な役割だったんです。それよりも、購入への障壁をなくすことの方が重要で、先ほど説明した「階層」が浅くなったことが大きい。データ的な裏付けがあったからこそ、思い切った施策がとれたわけです。

――ネット販売へ特化するにあたり、広告は展開したのですか。

展開はしましたが、ほぼいつも通りです。サイト刷新時は大きく広告を打ちましたが、これまでよりたくさん販促費を投入したわけではないですね。消費者はカタログからネットにスムーズに移行
してくれました。

――ギフトカタログとベビー用品カタログはどうするのですか。

ギフトは内祝い用なのでシニア世代の利用が多く、これはカタログの方が向いている事業なので、発行を継続します。ベビー用品については、マタニティーと同様にネットの強化を進めており、9月の売上高は前年同月比で80%増となりました。ですから、顧客の動きをみて「ネットだけでできる」という判断ができる段階になれば廃止しようと思っています。

――今期の目標は。

通期での増収と経常黒字を目指したいですね。売上高については「V字回復」とまではいきませんが、通期でも前期の数字を上回るはずです。

――現状の課題を教えてください。

何しろ赤字がすごかったので、出血を止めるのが急務でしたから、まだまだやることはあります。通販サイトの使い勝手にしても、改善すべき点はたくさんあります。マーケティングプランを導入
すれば売り上げは増えていくでしょう。また、スマートフォン対応も進めないといけません。すでにスマートフォンからのアクセスが半分以上になっているのに、対応が不十分です。ようやく社内に
ウェブデザイナーが揃った段階なので、これからさまざまなことをやっていきます。

――マタニティーやベビー関連の通販は、大手だったレモールが経営破綻するなど市場環境は厳しく、さらにはオムニチャネル時代となり、実店舗との競争もあります。

当社は中・高級路線の商品を扱っているので、他社に比べると少し価格帯が上なのが強みです。とはいえ少子化で妊婦が減ってきているのは事実ですからね。

LTVテーマにこれまでと違う分野で売り上げ作る

馬里邑で通販を柱に育てる

――今後の戦略を教えてください。

売上高60億円に届いた経験のある会社なので、60億円には戻したいと思っています。とはいえ、少子化が進んでいますから、これまでと違う分野で売り上げを作る必要があるでしょうね。

――具体的には。

当社はマタニティー関連が主力事業ですが、売り上げを大きく回復するためにはベビー関連の強化を進めなければならないでしょう。今は生後半年までの商品しか提供していないので、マタニティーから通算すると、1人の顧客を1年しかカバーできていません。CPAを考えたら、これほどもったいない話はないわけです。ライフタイムバリュー(LTV)の観点から、ひとまずは2歳くらいまで対象にしたいと思っています。また、産後向けインナーなど、産後のケア商品も強化しています。すでに授乳ブラジャーを発売しているのですが、売れています。

――健康コーポレーショングループで扱っている化粧品や健康食品の取り扱いは。

実は、これまでもカタログに化粧品などを掲載していたのですが、いかにもおざなりな紹介だったので、やるんだったらきちんとした形で展開したいですね。ただクロスセルが難しいのは、ハイマックス(現・豆腐の盛田屋)を買収したスタイライフ時代に痛感しています。「顧客が女性だから化粧品が売れる」わけではないんですよね。これが百貨店なら「ついで買い」を誘発できますが、瞬時に他サイトに行けるネットでは厳しい。反応が良い商品に絞って展開する形に
なるでしょう。

――親会社では大々的に実施している交通広告などは行わないのですか。

検討課題にはあがっていますが、どの程度効果が見込めるのか、きちんと見極めてからになると思います。

――馬里邑でも通販を開始しました。狙いは。

馬里邑に通販という概念を持ち込みたいと思っています。ゆくゆくは通販事業を百貨店・専門店向け卸に次ぐ柱としたいですね。顧客は50~70代が中心なので、エンジェリーベとは逆にカタログを発行しました。文化学園文化出版局の「ミセス通販」と組み、カタログを同封してもらっています。客単価は3万円以上となっており、事業は堅調に推移しています。中高年層は若い女性と違って浮気をしないところがやりやすいですね。

――親会社である健康コーポレーションの決算資料には、アンティローザも含めて、アパレル子会社3社間でシナジーを実現したいとありますが、具体的には。

これまでは黒字化が最優先のミッションだったので、3社間のシナジーについては今後の課題ですね。エンジェリーベが安定軌道に乗ったら取り組まないといけないと思っています。まずは仕入れの共通化などは早急に取り組みたいですね。

◇プロフィール◇

岩本眞二(いわもと・しんじ)氏
1962年9月大阪府生まれ、52歳。85年3月神戸商大(現 兵庫県立大経営学部)卒業、同年4月ニチメン(現・双日)入社。97年11月、ニチメンメディアのビジネスモデルの起案、設立と同時に出向。ニチメンメディアのネット事業部門を分離独立し2000年5月スタイライフを設立、同時に出向(兼務)。01年10月ニチメンメディア代表取締役社長(兼務)。04年1月スタイライフ代表取締役社長。11年6月退任。12年4月スクロール執行役員。13年12月エンジェリーベ取締役副社長。14年11月代表取締役社長(現任)。

◇編集後メモ◇

実は、岩本社長の本コーナーへの登場は2度目となります。前回はスタイライフ社長時代の2006年6月号。それから8年以上の時間が経過し、市場は大きく変貌しています。

アマゾンや楽天の「楽天市場」が規模を拡大する一方で大手通販会社の業績は低迷。新興のネット販売企業も、楽天に買収されたスタイライフを筆頭に苦しい経営となっている会社は珍しくありません。

エンジェリーベは老舗通販会社ですが、ネット販売への対応に失敗し、売り上げを大きく減らすとともに赤字となっていました。「カタログありき」で成長してきた通販会社のジレンマがあったわけです。岩本社長は「カタログがなければ商品は売れない」という固定観念を除くことで単月黒字化を実現しました。入社後すぐに結果を出したその手腕は見事です。

とはいえ、少子化が進展していることを考えると「売上高を最盛期の60億円に戻す」という目標の達成は容易なことではありません。オムニチャネル時代の到来で実店舗との競争も迫られる中、どれだけ存在感を示せるか。

岩本社長はスタイライフ時代、目標としていた売上高100億円を達成することができませんでした。かつて「会社を拡大成長させていくことに関しては、スタイライフ時代の経験が活かせる」と語っていましたが、エンジェリーベを再び成長軌道に乗せることができるのか。来期以降の動きに注目したいところです。

NO IMAGE

国内唯一の月刊専門誌 月刊ネット販売

「月刊ネット販売」は、インターネットを介した通信販売、いわゆる「ネット販売」を行うすべての事業者に向けた「インターネット時代のダイレクトマーケター」に贈る国内唯一の月刊専門誌です。ネット販売業界・市場の健全発展推進を編集ポリシーとし、ネット販売市場の最新ニュース、ネット販売実施企業の最新動向、キーマンへのインタビュー、ネット販売ビジネスの成功事例などを詳しくお伝え致します。

CTR IMG