「だったらいいのに。」をかなえるギフトブランド──。宅配水事業などを展開するナックは2014年の11月から新たにギフトブランド「gissemble(ギッセンブル)」を開始した。ブランド名は「ギフト(贈り物)」を「アッセンブル(組み立て)」するという意味の造語だ。ブランド開始に合わせて専用サイトを開設し、立ち上げ時で食品関連を中心に約20商品をとりそろえる。
同社執行役員で同ブランドを立ち上げた新規事業兼海外事業部長の小林貴之氏によると、「自分なりに、あとちょっとの“ひと手間”を楽しみたい人がいます」と分析し、そこで「プロセスを楽しめて、一手間かければ完成するというものを集めました」と商品ラインアップについての方針を述べる。
取り扱っているギフト商品の特徴の1つが「未完成」ということ。例えば販売している「醤油の素」は、瓶の中に昆布やかつおが入っており、そこに自分で醤油を加えると自家製のだし醤油が完成するというもの。「そのプロセスによって自分好みの味調整を楽しみたいというニーズが満たされのるではないかと考えています」と小林氏。
そのほかにも「パエリアセット」「ホットワインの素」「ドレッシングの素」「ポン酢の素」などを取りそろえる。商品は製造元と提携してOEMで提供を受け、すべてオリジナル品で投入している。
現在、複数の新商品を準備中で、その1つが枝豆、ナス、トマトなどの「野菜の栽培セット」。器・土・種が一式のセットになっており、自分で野菜を育てて最終的に食べることができる。ギフトを受け取った側が贈り主に対して「芽が出たよ」などと写メを送ったりすることで「ギフトを贈った側ももらった側もどちらも楽しめます」(小林氏)。
不満足を改良して新たな市場を
ナックはそもそも宅配水事業やダスキン事業、あるいは注文住宅事業などを手がけているが、新規事業を模索している中で、今回のギフトサービスに行きついたようだ。
小林氏が以前読んだある記事によると、ギフト市場が縮小傾向にある中で、百貨店が既存のギフトセットをバラして商品を個別に販売する“解体セール”を実施したところ多くの反響があったという。見方や方法を少し変えることによって「新たな市場が出現する可能性がある」(同)と感じた。
また、小林氏が目にした別の記事によると、大手食品メーカーが改良して新発売した冷凍餃子が大ヒットしたにもかかわらず、コアなファンからクレームが相次いだとのこと。
新商品の冷凍餃子は何もしなくても加熱するだけで美味しく食べることができるという商品だった。しかし、ロイヤルユーザーからすると自分なりの水加減や油加減を楽しんでおり、それができなくなったというクレーム内容だった。その記事から、「どんな大ヒット商品であっても不満足を抱える人がいる。それを改良すれば、別の市場ができる」(同)と考え、「だったらいいのに」をかなえるギフトブランドを立ち上げた。
そして、冷凍餃子の事例のように、ユーザー側が少し手を加えることができるような、自分好みにあえて“ひと手間”をかけることで完成するような商品群をそろえたというわけだ。
35万軒の顧客基盤を活用
「ギッセンブル」の開始に合わせて、オープニング特別企画として元宝塚歌劇団花組トップスターの大浦みずきさんのメモリアルギフトを展開した。
若くして他界した大浦さんの追想展に合わせて、大浦さんの思い出に触れることができるギフトをメモリアルセットとして企画。赤ワインとオードトワレをセットにして「FOREVERNATSUME」(税抜1万円)を数量限定で販売したところ、大きな告知をしていないにもかかわらずファンなどから購入があり、短期間で250セットを売り上げた。
追想展のファンに対して“何かできたらいいのに”という思いをギフトにしたら成功したという事例だ。「ギッセンブル」では今後も「『こうだったらいいのにな』というもので、我々ができるものであればギフトとして取り組んでいきたい」と小林氏は語る。「ギッセンブル」は11月末にアマゾンにも出店した。1月末から雑誌での告知なども実施していく。
同時に、ナックは宅配水事業やダスキン事業などを通して一般家庭に35万軒程度の顧客を持つため、納品の際などに担当者が直接顧客宅でギフトサービスを告知することも可能となる。このように顧客に「容易にリーチできる」(小林氏)ことが強みとなるため、自社の顧客基盤を活用していく方針だ。
また、同社は2013年7月に化粧品や健康食品の通販事業を手がけるJIMOSを子会社化しており、「JIMOSは通販での販促や広告展開に強みを持っているので、どこかのタイミングで力を借りてやっていきたいと思っています」(同)とする。
来期1年間で1億円を目標
ギフト市場は成熟して縮小しているとも言われており、その一因としてお中元やお歳暮といった文化が若年層を中心に継承されなくなっていることが挙げられる。
とはいえ、調査会社のギフト関連のデータでは、ギフト市場は17兆円の規模を持っている。市場規模を下支えしているのは“カジュアル”な贈り物だという。つまりお中元やお歳暮といった古来からの儀礼的な贈答ではなくて、誕生日や記念日、出産祝い、新築祝いといった個人的でカジュアルなギフトが上向いているというのだ。ナックではそうした市場動向にも目を配りつつ、ユーザーが手軽に購入できるような価格帯でこだわりの商品をラインアップしている。
ナックは来期(2015年4月~)から本格的に「ギッセンブル」の販促を仕掛けていく計画で、来期1年間で1億円の売り上げを目標に掲げている。あえて“ひと手間”をかけて、完成までのプロセスを楽しむギフト商品を展開する「ギッセンブル」の人気に火が付くのか。今後の状況を注視したい。
【担当者に聞く】
プロセスを楽しめる商品を
Q:「ギッセンブル」開始の経緯は。
A:ギフト市場はシュリンクしていると言われていますが、それでも17兆円という巨大な市場です。たまたま目にした記事によりますと、ギフトセットをバラして販売する“解体セール”を百貨店で行ったところ人が詰めかけたということです。つまり成熟したギフト市場でも方法を変えれば新たな市場が出現することもあるのだと感じました。それとは別の記事では、大手食品メーカーがヒット商品の冷凍餃子をさらに改良し、ユーザーが手を加えなくても良い商品を売り出すと大ヒットしたそうです。しかし便利にした結果、水加減などの最後のひと手間がなくなったことに対してクレームが寄せられたそうです。つまり、大ヒット商品にも不満足を抱える人がいるんだと思いました。そこを改良しニーズを満たせば新たな市場が生まれると思いました。
Q:そのニーズとはなんでしょうか?
A:何も手を加えなくてもいい餃子に不満を持つ人がいるわけですが、その不満の正体を考えると、“自分なりに”や“あとちょっとのひと手間”といった具合に、少しのプロセスを楽しみたい人がいるようだと考えました。つまり「自分好みにひと手間を楽しみたい」というニーズを抱えている人がいると思いました。また、ギフトでも“解体セール”のように少しの不満足を解消すれば人が押し寄せたということなので、贈り物として単に美味しいだし醤油というのではなく、未完成の“だし 醤 油 の素”のようなものが贈られると、“自分好みに味を調整したい”というニーズが満たされるのではないかと考えました。
Q:商品は食品が中心になるのでしょうか。
A:特に食品にこだわっているわけではありません。自分なりにひと手間をかけて、プロセスを楽しめるものを集めていきたいです。