EC企業のオウンドメディア活用術

昨今、ECサイトとは切り離して情報を発信するサイト「オウンドメディア」が注目されている。自社の持つビジュアルや研究データなどを情報として発信し、これまで獲得できなかった“見込み客”との接点を拡大させることができるとされているためだ。潜在客を増やすには、優良なコンテンツを作り、多くのチャネルへ広げることがカギとなる。オウンドメディアを立ち上げたEC実施企業の活用術をみていく。

事例② TUKURUの「melikry(ミーライキー)」

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優良顧客をキュレーターに 有益情報を収集

製菓・製パン材料のネット販売を行うタイセイ子会社のTUKURUは昨年12月に、製菓・製パンカテゴリーに特化したキュレーション型メディア「melikey(ミーライキー)」を立ち上げた。

ユーザーにお気に入りのウェブサイトやレシピページを登録し一元管理してもらうことで、コンテンツを蓄積する。登録された情報は第三者に公開され、他のユーザーは賛同を示す「いいね」ボタンやコメントを投稿することが可能。投稿された情報は、独自の評価基準で判定し、有益性を見える化する。レシピを登録し公開するユーザーをキュレーターとして位置付けて情報を公開し、好みのレシピ探す新規ユーザーを取り込む考え。

レシピ検索ユーザーを自社通販サイトの見込み客として位置付け育成する。

ブックマークツールでコンテンツを蓄積

「ミーライキー」のコンセプトは、製菓・製パン材料に特化したブックマークツールだ。菓子やパン作りを日常的に行うユーザーにお気に入りのレシピや情報を登録してもらい、第三者による賛同を示す「いいね」数などの“お役立ち度”で登録レシピを独自評価する。

これにより、菓子やパン作りに興味を持つ他のユーザーは好みに合った失敗しないレシピを簡単に探すことができる。登録できる情報は自社通販サイト「コッタ」で公開されているレシピや商品情報以外に、大手レシピサイトや食品メーカーのサイトで紹介されているページを登録することが可能となっている。

もともと同社では、商品だけで他社との差別化が難しくなっている昨今のネット販売市場を踏まえて、ユーザーにとって有益な情報を紹介して集客し、そこからネット販売へ誘導するオウンドメディアの立ち上げを思案していた。

レシピサイトに登録されるレシピが増え続ける一方で、好みのレシピを探す手間は増す傾向にあったという。ブックマークはブラウザ上で行うのが一般的だが、キッチンに持ち出しにくく、多くのレシピを集約して比較検討するには使い勝手が悪かったという。

そうして立ち上げたのが、お気に入りとして登録されたレシピや情報を閲覧できる「ミーライキー」だった。

“体験”重ねてユーザーを育成

レシピを登録するユーザーは、自社通販サイト「コッタ」の優良顧客。日常的に菓子やパン作りを行っている層で、キュレーターとして位置付ける。「いいね」が押されるなど、第三者の役に立ったレシピを投稿したユーザーには専用ポイント「ハッピーポイント」を付与し、ユーザーのランクが上がる仕組み。

「ハッピーポイント」はコッタのポイントに交換できる仕組みを検討しているという。そもそもミーライキーは製菓・製パンカテゴリーに特化しているためターゲットが絞られていることや、目的買いが多いコッタの購買行動から、ポイント交換が運用コストの膨張要因にならないとみている。

まず、自社通販サイト「コッタ」上で告知を行い、優良顧客を中心に誘導していく。現状、「コッタ」には26万人の顧客がおり、月間1100万件のページビューを獲得。「レシピ検索の課題の解消と、コッタの買い物が便利になることを紹介すれば、数%のユーザーは利用してもらえるだろう」(同社)とした。

一方で、新規ユーザーの獲得はSEOを中心に展開する。菓子やパン作りを行うユーザーは、作りたい菓子やパンを検索して複数のレシピサイトを比較し、良さそうなレシピから1つに絞り込む傾向があると分析。検索結果からレシピを絞り込んでいく消費行動の中で、自然にミーライキーにアクセスするきっかけを作っていく。「ミーライキーで失敗しないレシピを見付ける体験を重ねてもらうことで、わかって使ってもらえるようになる」(同)としている。

加えて、SNSを通じた集客も視野に入れる。興味を持つきっかけの1つとして位置付け、SEOでは取り込みにくい潜在顧客への認知度の向上を目指していく。コンテンツが一定数蓄積された段階で、ミーライキー上で最も閲覧数の多いレシピの紹介などをSNS上で行う考え。

1人当たりの登録レシピ数で依存度を評価

サイトの評価は、ユーザー1人あたりのマイページに登録されるレシピや情報の数で判断する。登録するレシピや情報が増えれば増えるほどサイトへの依存度が高まると考えているためだ。登録レシピ数をデータ化し、離脱する傾向が高い数値を判断。登録レシピ数を増やすマーケティングを行っていくようだ。

通販サイトへの流入の導線はあえて設けず、コンテンツの信頼性で自然な購買を促していく。すでに「コッタ」では、優良顧客にお気に入り商品を紹介してもらうコンテンツ「教えて私のマスト・バイ」を展開。アイテムの良さや使って楽しかった体験などを交えて紹介したアイテムは、最安値を検索せずそのまま購入につながっていたという。紹介前と比べて数倍の受注増を獲得し、その後も長期的な受注がみられるなど成果が実証できているという。

このため、ミーライキー上で良い商品が拡散するよう、まずはツールとして使いこなすユーザーを増やすことで通販サイトへの流入を図る考え。合わせて、「ミーライキーはプラットフォームとして使ってほしい」(同)考えで、「コッタ」以外からのレシピや商品情報の登録を可能としている。他社サイトへの流出に対してはアフィリエイトの仕組みを用意し、広告として展開することで収益の確保を目指していく。

利用シーンに合わせたアプリを提供

今後、スマホ対応を強化する考え。スマホの利用シーンに合わせて、レシピを検索して登録までを簡単に行えるようにするほか、登録されたレシピをスムーズに閲覧できるようにする。近くアプリの配信をしており、まずはPCサイトでのSEO対策を強化し、サイトへの流入数を向上し認知度の向上を図っていく。

将来的には、キュレーション型メディアのノウハウをソリューションとして展開することも視野に入れる。製菓・製パンカテゴリーと同様の、自転車やDIYなど、ニッチでありながら情報を欲しているユーザーが多いカテゴリーは多いとみる。まずは、メディアサイトを通じて通販サイトの売り上げを上げる仕組みを構築し、ノウハウの蓄積を目指す。

TUKURUの石川森生社長に聞く オウンドメディア運用のポイントは?

キュレーターの”熱意”見える仕掛けを

「ミーライキー」は投稿者が顔を出して、お気に入りのレシピや商品を情報として登録するブックマークツールです。日常的に菓子やパンを作るユーザーを介して、多くの情報の中から選りすぐりのレシピや商品を掲載しているのが特徴です。

ただ、サイトを立ち上げた当初は、コンテンツの価値を閲覧する第三者に理解してもらえるか懸念がありました。投稿者がどうしてそのレシピを登録したのか、どういったシーンで利用して誰に喜ばれたのか、そういったことが見えていなかったわけです。

評価の仕組みや他のユーザーが書き込めるコメント欄があっても、そもそも投稿者の熱意が閲覧する他のユーザーに伝わらなければ、「ミーライキー」におけるコンテンツの価値は高まらないと感じました。大きな改修は考えていませんが、運用しながらテコ入れを図っていくつもりです。

「ミーライキー」は製菓・製パンカテゴリーに特化しているので、ターゲットは自然に絞られると思います。オウンドメディアの成功基準はあると思いますが、ニッチな方が集まる環境を、規模を犠牲にして用意しているので、面白いコンテンツが生まれやすいと思っています。ターゲットが絞られた濃いユーザーに対して、価値のある情報を提供できれば、コンテンツが広告に進化する可能性は充分あり得るのではないでしょうか。

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