ガールズ系に特化し存在感高める【三村克人●モバコレ代表取締役社長】

千趣会の100%子会社で女性向けのファッション通販サイトを運営するモバコレは、ギャル文化が下降気味となって以降も強みのガールズ系に特化することで成長してきた。最近では、22~24歳という中心顧客層の興味をひく服以外の商材を拡充してきているのに加え、数年後を見据えて少し大人を意識した新サイトもオープンしている。同社の三村克人社長が描く今後の成長戦略とは──。
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モバコレ独自の戦略に舵を切ったことで軌道に乗った

“逆バリ”戦略が奏功

――ファッションECの市場をどのように見ていますか。

ファッションECの市場規模は出自によってだいぶ違いますよね。経産省の発表では2200~2300億円という数字ですが、これには楽天さんやアマゾンさんが入っていなかったりします。シンクタンクでは5600億円という数字を出しているところもあります。ただ、実際にサイトを運営している側としてはピンとこないというのが本当のところです。いろいろな自主調査をしていくと、実感値としては7500億円~8000億円くらいというのが実際の市場規模ではないでしょうか。楽天さんとスタートトゥデイさんを合わせただけで5000億円を超えています。加えて、昨今はメーカーさんも自社通販サイトをかなり強化していますので、そういう数字を積み重ねていくと7500億円以上はあると見ています。

――まだまだ成長する余地がありそうです。

アクセサリーなどを含めたファッション産業全体の市場規模は15兆円の後半と言われていますので、ファッションEC市場が7500円超だとすれば、EC化率は5%くらいととらえることができますので、まだまだEC市場は伸びしろが大きいと思います。リアルの売り場に重点を置いている企業ほどEC化率は低いですが、そういう企業も2~3年くらい前から自社ECに注力し始めていますので、そういう意味では、当社からするとメーカーさんは取引先パートナーであるとともに、競合相手にもなってきているわけです。消費者からすれば単純に買い物をする場所が増えていて、市場全体ではレッドオーシャン化に拍車がかかっているということだと思います。

――主戦場とされているガールズ系ECの事業環境はいかがですか。

ガールズ系のファッションECは元々、モバイルとの親和性が非常に高いという特徴があります。当社もDeNAさんとの合弁会社として200年に創業していますので、最初からモバイル通販でのスタートでした。当社がいま、比較的に業績が好調なのは、ある種の“逆バリ”戦略が実を結んでいると思います。というのも、ギャル文化が2010年くらいを境に少し落ち始め、12年くらいから急激に下降線をたどりました。ギャル向け雑誌の休刊も相次ぎました。そういう過程の中で、市場に群がっていたプレーヤーがひとり消え、ふたり消えと離れていきました。当社も、当時は舵の切り方に悩みましたが、自分たちの強みである足場をさらに強めていく決断をし、ガールズ系のマーケットに一層フォーカスすることにしました。それが結果として、需給バランスがマッチしてきたときに、当社の存在感がグッと高まり、立ち位置が非常に明確になったと思います。

――ギャル市場が衰退していく中で不安感はありませんでしたか。

ガールズ系が強みではありますが、事業拡大を考えたときに別軸に振っていった方が良いのではという議論は出ました。実際に、ファッション誌との連動型ECを始めたり、キッズ系のファッション領域を攻めようということで「ミニコレ」を立ち上げたりもしましたが、釣りに例えると、池と魚と仕掛けの関係性が非常にバランスの悪い戦略を立てようとしていたことに気づきまして、私が着任してすぐ、それらをたたんで、ガールズ系によりフォーカスすることにしました。

――「ミニコレ」がうまくいかなかったのは、なぜでしょうか。

千趣会にはナショナルブランドを仕入れて販売する事業体があり、モバコレを誘致してくれば千趣会本体との連続性が持てるという発想がありました。背景には、千趣会が20代会員を増強したいという戦略があり、その入り口として「モバコレ」を位置付けていました。ただ、双方の会員属性はまったく違いますし、千趣会の「ベルメゾン」とのサービス水準の差もあって、うまく連動できませんでした。結果的に千趣会との連動性よりも、ガールズ系に集中するというモバコレの独自戦略に舵を切ったことで、事業が軌道に乗ったとも言えます。

広告の運用を内製化

――この数年でケータイからスマートフォンへのシフトが進みましたが、影響は
ありましたか。
確かに、当社の主要顧客層の間では2012~13年にかけてスマートフォンへのデバイスシフトが一気に進みました。競合サイトはガラケーよりもパソコンが主体でしたので、われわれほど大きな影響は受けなかったようですが、当社の顧客がガラケーを解約してスマホに切り替える際、モバコレの会員登録も途切れてしまい、大きなピンチを迎えました。そのとき、突破口となったのがSEOでした。いち早くスマホでSEOに取り組んだことで、元々の会員の目に触れやすく、比較的に短期間会員が戻りました。

――スマホシフトで良かった点はありましたか。

デバイスの移行期にはメリットもありました。当社は元々、モバイルが主戦場だったために、販促の手段がいわゆるプッシュマーケティングで、モバイルライクな販促のノウハウを蓄積していました。これをうまくスマホサイトに移植できたことが競合に対するアドバンテージになったと思います。

――最近、強化されている点は。

この数年は社内体制の“バリューチェーン化”を推進してきました。モバコレはスピードとフレキシビリティーを売りにしてきた会社で、マーチャンダイジング(MD)と編集、販促など各機能が独立して動いていた部分があったのですが、各部門の機能間連携を高めてきました。

――販促面についてはどうですか。

当社では、データマネジメントプラットフォーム(DMP)に近い基盤構築を進めています。これに伴ってリスティングを中心とした広告出稿を内製化し、社内運用を始めています。従来は代理店を通していたためワードを反映させるのに2~3日かかっていましたが、2014年6月に専任者を配置して、クリックひとつで反映できるようにしました。市場環境の変化や競合の動向、ブランド側の施策などに合わせてアルタイムに打てるようになったことで、広告効果は従来の2倍~2.5倍に高まりました。

――効果のあるリピート施策はありますか。

非常にベタな取り組みになりますが、顧客ステイタスに合わせてクーポンを配布したりしています。DMPともリンクしますが、過去の購買傾向などを抽出した上で、結果的にクーポンの発行が次の購入に結びついています。購入した際に付与するものやタイムセールの意味合いで画面上に表示するポップアップクーポンなど、さまざまなクーポンがあります。他には、ブランドをお気に入りに登録しておくと、そのブランドの商品が値下がりしたり、新商品が入荷した際に通知をすることで、再来訪を促したりしています。

千趣会にならって〝ガールズ〟スマイルカンパニーを目指す

6月に新サイトを開設

――改めて、「モバコレ」の特徴を教えてください。

中心顧客層は22~24歳の女性で、取り扱っているブランドはファッションビルの「SHIBUYA109(マルキュー)」に入居するショップと近いです。強みであるガールズ系の中でも最近では「リゼクシー」や「ダチュラ」「リエンダ」といったセクシー・グラマラス系のブランドが売り上げをけん引しています。また、この数年はガールズ系にフォーカスする戦略と並行して、カジュアル系とスイート系ブランドの開拓にも力を注いできました。とくに「ロイヤルパーティー」や「スナイデル」などに代表されるスイート系のブランドは大きく伸びています。

――新サイトの開設もそうした流れからでしょうか。

その通りです。中期的な事業拡大に向けて15年6月下旬に“大人ファッシン通販”の切り口で新規通販サイト「Annamuse(アンナミューズ)」をオープンしました。新サイトで扱うブランドは「モバコレ」の取引先とほとんど変わりませんが、カジュアル系とスイート系を中心とした見せ方や編集企画を前に打ち出すことで、現在の中心顧客が数年経って25~30歳くらいになったときに、継続して購入してもらえる売り場を目指します。

――「モバコレ」を卒業する層を再獲得する狙いでしょうか。

当社顧客がガールズ系ファッションを卒業した後に、どういう志向性の変化をたどるのかは法則が難しいです。同じガールズ系のブランドの中でブランドチェンジする消費者もいれば、ガールズ系のブランドを一部で着続けながら外資系のファストファッションを取り入れてミックスさせたり、カジュアル系やスイート系に振られていくなど、ひとつの法則や塊として捉えにくいのが実情です。ただ、当社ではガールズ系にフォーカスする戦略の傍らでカジュアル系とスイート系を増強してきましたので、それらを前面に出した売り場を設けることになりました。

――新サイトの開設で新たなブランドとの関係も出てきそうです。

もちろん、新規ブランドの獲得にもつなげたいと思っています。実際にカジュアル系ブランドでは「ロペピクニック」や「ビス」などの取り扱いが始まっています。今後は、「アンナミューズ」に特化したプロモーション手法にもトライアルしていきます。

――そのほかに新しい取り組みは。

ターゲット顧客層の興味をひく服以外の商材にも取り扱いの幅を広げています。ランジェリーや美容・健康関連商品、カラーコンタクト、人気ブランドのスマホケースや新進クリエイターがデザインした「モバコレ」オリジナルスマホケースなどの販売をスタートしています。今後も、雑貨などを含めた女性のライフスタイル全般を対象に売り場を強化したいと考えています。親会社である千趣会が掲げる企業ビジョンの“ウーマンスマイルカンパニー”にならうとすれば、当社は“ガールズスマイルカンパニー”を目指していきます。

――ガールズファッションの市場は変化も速いと言われます。

そうですね。トレンドの移り変わりの速さが特徴のひとつですが、姿形が変わっても、ガールズファッションの マーケットは存在し続けます。その中心部分を常にキャッチアップすることが大事になります。引き続きトレンドの潮目に注視して顧客ニーズの変化に対応していきたいです。

――「モバコレ」としてはどういう特徴で競合との差別化を進めますか。

これまでもそうですが、あえてガールズ系のブランドにフォーカスするというのが強みを発揮する大事な部分です。取り扱いブランドひとつひとつを見ると他社サイトでも扱っていますが、そのゾーンのブランドを分かりやすく取りそろえているのがウリですので、それは変えません。

――足元の課題や業績についてはいかがですか。

足もとの7~12月期は、社内のMDや編集、販促といった機能間連携を高める“バリューチェーン”の精度向上に続的に力を注ぎます。また、スタートしたばかりの「アンナミューズ」へのブランド誘致も含め、事業の足場を固めていきます。モバコレの売上高は、2014年12月期の前年比約8%増に対して、15年12月期は2ケタ増を見込んでいます。

◇プロフィール◇

三村克人(みむら・かつと)氏

1969年生まれ。2008年に新規事業開発担当として㈱千趣会に入社。2009年㈱角川SSコミュニケーションズ(現㈱KADOKAWA)との合弁会社(株)K.Senseを立ち上げ、同社取締役に就任。「シニア向け定期購読誌」をプラットフォームとしたシニアコンテンツ事業に従事。2012年㈱モバコレ代表取締役社長に就任、現在に至る。

◇取材後メモ◇

2010年11月にDeNAが持つモバコレの全株式(51%)を千趣会が取得し、同社100%子会社となって、間もなく5年が経過しますが、その間、ギャル文化の衰退やガラケーからスマホへのデバイス転換など大きな環境の変化が訪れています。

キッズカテゴリーや雑誌との連動通販に新たな成長市場を見出そうとした時期もありましたが、三村社長の就任後は原点回帰し、強みであるガールズ系ファッションに特化してきました。また、親会社との連携を強化して特色を失うよりも、モバコレとしての独自戦略に舵を切った決断力が市場での存在感を高める転換点となったようです。

変化のスピードが速いガールズ市場ではありますが、ブレない戦略によってさらなる成長を目指す同社に注目が集まりそうです。


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