「IoT(モノのインターネット)」が各分野で注目され始めている中、ECへの活用も進みつつあるようだ。
近い将来には実用化される可能性の高いIoT関連サービスを示したのは楽天だ。同社では10月4日~7日にかけて開催された展示会「シーテックジャパン2016」で同社の技術開発の専門部隊が開発中のIoT関連の様々な試みについての展示を行った。
展示したのは「KiTeMiROOM」「PhySig」「zapzap」という3つのユニークなサービスだ。
「KiTeMiROOM」はユーザーの属性や服装などの環境情報をもとに、商品数を絞り込んだり、ランダムに切り替えたりすることで、自然な組み合わせを生み出すコーディネーション提案システムとなっている。3Dセンサーが人の性別分析し、似合いそうな衣服をコーディネートする。
展示したシステムの場合、楽天が運営する仮想モール「楽天市場」で販売されている商品の中から検索し、合いそうな衣服を提案した。将来的には、楽天市場の出店店舗が実店舗を出した際に、店に置いていない商品を同システムで薦める、といった使い方を考えているようだ。アイテムの情報をすべて読み取るので、価格帯などで条件付けするといったことも可能だ。
「PhySig」は商品がディスプレーされている場とスマートフォンを連動させ、プロジェクターで壁に投影されるカーソルを使って、商品の情報を探すというもの。
プロジェクターに追加情報を表示することで、より買い物を楽しくするのが目的だ。展示会では「楽天市場」に「よなよなの里」を出店するヤッホーブルーイングと連携したデモを行った。デモではバーをイメージし、ビールを注いで色が分かるようにしたり、レビューの表示を行った。また、プロジェクター上で店長と「乾杯」をすると、スマホに詳しい情報が表示され、そこからネット販売につなげるといったことも可能となることを示した。また、他のユーザーと「乾杯」することもでき、そのユーザーがどんなビールを飲んでいたかが分かるという。ユーザー同士のコミュニケーションから買い物につながる、といったケースを想定しての機能だ。今後は店舗に設置して実証実験をしたい考えのようだ。
「zapzap」は書籍の体験システムだ。ディスプレーの上に本を置くと、多く出現する単語が本の周りに表示され、気になる単語をタッチすると、その単語を含む文が画面に現れるもの。読み取った表紙のデータを電子書籍データと紐付けることでこうした仕組みを実現している。書店における購買支援が目的だという。
いずれも実用化されれば既存のECサービスの形に変化をもたらしそうだ。
光センサー容器でCRM最適化
サービス面だけでなく、商品自体へのIoT活用も進み始めているようだ。例えば通販化粧品の企画、OEMを多く手掛ける天真堂では来春をメドに化粧品容器にIoTを活かすことを構想している。容器メーカーと共同で専用容器の開発に着手。蓋の開閉に合せて光センサーが反応する形で使用量を計測するものだ。使用量を正確に把握することで通販企業のCRM最適化を支援していく。
容器は蓋部分に化粧品を使う際に使用できる鏡つき。これを活かし、底面部のボタン電池つき基盤から発した光センサーを反射させて使用量を測るという。データはブルートゥースで専用のアプリケーションに飛ばす。使用量に応じて最適なタイミングでキャンペーンを展開して次回購入のアプローチをしたり、あまり使っていない顧客に使用を喚起したりするのに役立てる。
必要となる専用アプリ「TEN」は12月初旬をメドに開発。まずは取引先の化粧品企業の顧客に使ってもらうことでダウンロード数を増やしていく考え。商品の購入機能を持たせるほか、美容情報の発信やくちコミ機能を持たせてメディア化も目指す。
新容器はまだ開発段階。技術的には容器の底面部に埋め込み可能な小さな基盤も開発できており、すでに特許も出願しているという。ただ、製造コストが大幅に高まることが実現に向けた課題。大口の取引先に採用されるなど大ロットの製造でコスト低減を図る必要があるほか、埋め込み基盤の低コスト化も必要という。これら課題は2回目以降の購入をレフィル(詰め替え用容器)対応にすることで一定のコスト圧縮を図る。電池が切れるタイミングで外側容器の購入が必要であるものの、レフィルのみであればメール便が可能なため配送コストなどを大幅に削減できるとみる。
また、外側容器自体は雑貨扱いのため成分表示が必要なく、デザイン性を高めることも可能。育毛剤など人に知られたくないような〝悩み系〟商材に適したデザインが施せる点でもメリットがあるとする。
容器のIoT化が実現すれば、化粧品だけでなく、食品などほかの分野でもこの技術を活かす。たとえば料理レシピを配信するようなアプリと組み合わせて使用量を把握しつつ、使用喚起に応用する。
同社ではこのほか、バーチャルリアリティ(VR)やAR(拡張現実)も活用する予定。近く取引先が組立式3Dメガネを使ったCRMのテストを開始するが、使用する動画素材は8月、社内に開設した撮影スタジオ「TENSTA」で制作することでサポートする。専用キャラクターをつくり、商品を説明したりゲーム感覚で商品の継続購入を促す考え。同様の仕組みはARでも可能。同社は自社製造設備を持たない「ファブレス」であるため、価格競争力ではなく、トータルサポートなど付加価値で差別化を図る考えだ。
今後、爆発的に増えて行くであろうIoTのコマースへの活用事例。ネット販売との親和性は高いはずでどのようなモノとECが融合して新たな商品・サービスが誕生するか。注目されそうだ。