楽天は2017年7月26日、出店者向けのイベント「楽天EXPO 2017」を都内で開催した。当日は、三木谷社長の講演のほか、楽天市場における下期の事業戦略を公開。同社が認定した優良店舗の商品を、仮想モール内検索で優遇する制度を始めたことを明らかにした。
世界でブランド力強化へ
三木谷社長は冒頭で、「ブランド」をテーマに講演した。「突き詰めるとインターネットもブランディングが重要。自分の店舗や商品のブランドを深く深く深く深く考えるいいチャンスではないかと思い、このテーマにした」(三木谷社長)。
同社では17年7月、グローバルにおけるブランド浸透を図るため、コーポレートロゴを刷新するとともに、国内外で展開するグループサービスのロゴを「Rakuten」ブランドを核としたものに変更。スペインのサッカークラブ「FC バルセロナ」とのグローバルパートナーシップを展開する中で、各サービスロゴの共通性を高めるなど、一体的なブランド構築・強化を行っていくことで、国内外における楽天ブランドの一層の認知向上を図るのが目的だ。
三木谷社長は「FCバルセロナと楽天の目指す方向性は近い。アマゾンは自分たちが売り、足りない部分を店舗が補う形だが、当社は店舗の皆さんに盛り上がってもらうやり方だ。つまり、皆さん一人ひとりが(FCバルセロナのスター選手である)メッシらであるという発想で運営している」と店舗が主体である点を強調。FCバルセロナとの協業の意義については「チームを使ったブランディングをしていく予定で、海外でも楽天ブランドの認知は進むだろう」とした。
同社によれば、欧州で展開しているストリーミングサービス「Wuaki.TV」の名称を、子会社がバルセロナにあるということで「Rakuten TV」に変更したところ、ユーザー数が伸びるなど、すでにブランド力向上の兆しがあるという。
これまで国内でも、プロ野球の楽天イーグルスやJリーグのヴィッセル神戸などを通じ、ブランド力強化を進めてきた同社。「楽天ブランドをグーグルやフェイスブック、アップルのレベルまで高めていく。単純に有名というだけでなく、哲学がしっかりあることが重要。モアザンなカンパニー、モアザンなサービスを推進していきたい。店舗が成功し、幸せになってもらうことが一番重要なポイントだ」(三木谷社長)。
「クーポンアドバンス」に効果
河野奈保常務執行役員は流通ランク上位の店舗数を公開。今年6月時点の月商1億円以上の店舗は159(昨年6月は135)、3000 万円以上は735(同635)、1000 万円以上は2236(同2162)、300万円以上は6033(同5863)で、成長が続いている。
野原彰人執行役員と黒住昭仁執行役員は楽天市場における下期の事業戦略を説明した。同社では、店舗向けの「満足度アンケート」の結果を取り入れたサービス改善を進めており、下期はRMS(店舗管理システム)における商品情報更新の効率化や、無料通話アプリ「バイバー」を利用した新たなログイン方法の追加などを行う。
出店店舗向けの電子掲示板「RON会議室」を刷新。楽天からメールで配信されたサポートニュースをウェブから確認できるようにしたほか、興味やジャンルが共通する店舗同士で集まって話し合うことができるよう、コミュニティー機能を追加。また、運営上の悩みや疑問点を解決するために、質問コーナーを設けている。
2016年からは、広告効果の開示を始めた。店舗が予算を入力すると、最適な値引率と商品数が自動最適化して表示され、効果の見込めるユーザーにクーポンを配る「クーポンアドバンス広告」についても、年内に効果開示を開始する予定。同広告はすでに7000店舗が利用しており、ROAS(広告支払った金額に対する効果)は平均560%となっている。ある玩具ジャンルの店舗の場合、同広告の導入で平均月商は約2倍、ROAS は14倍を記録したという。
不審ユーザーは警告表示
昨年9月に導入した、店舗がルール違反を犯した際に点数を付与し、累積点数で違約金などの罰則を課したりする「違反点数制度」については「違反点数を加点された店舗は年間で2%に満たない。それも、意図して権利侵害品売るようなケースや、薬機法違反をするといったものだ。楽天市場のクオリティーは上がっている」(野原執行役員)。制度開始移行、低評価レビュー率は半減したという。
野原執行役員は「店舗からはいまだに『罰金を取るのはどうか』という意見がある。ただ、結果としてクオリティーが上がったのは確かだ。一方で『処分が重すぎる』と意見があった違反については付与する点数の見直しを進めたり、新たルールを設ける際は一定の猶予期間を設けたり、現実的な着地を目指している。低レビュー減少とともに流通額も伸びているという事実もある」と話す。点数の累積で強制退店につながったケースについては「月1件あるかないか。ただ、意図的に違反をする店舗は前からあったわけで、当社はクレジットカード売り上げを抑えることができるため、制度導入でこうした店舗が儲からなくなったのは大きい」(野原執行役員)。
一方で3月に「月間優良ショップ」制度を開始。これは、同社が認定した店舗(上位1%)の商品については、パソコン検索すると「月間優良ショップ」アイコンが表示されるというもの。今後はスマートフォン経由やスマホアプリ経由の検索でもアイコンが表示されるようにする。
野原執行役員は「アメとムチではないが、違反点数制度とは逆に、クオリティーの高い店舗についてはどんどん露出してもらう。何をもって『優良』とするかだが、基本的にはデータ分析ツール『R-karte』の項目にある、顧客対応やレビュー数、配送遅延状況などの評価点による。月ごとに店舗は入れ替わるが、選ばれれば励みになるのではないか。R-karteの評価点を見れば、どこを改善すれば良いのかが分かるので良い循環が生まれる」と制度の狙いを説明する。
また、不審ユーザーの楽天への通報フォームの導線を強化しており、不審ユーザーからの注文については、受注画面で警告表示出るようにした。
「店舗からは『配送業者から情報をもらえば規制できるだろう』との声もあったが、それは個人情報なのでできない。店舗が通報しやすい仕組みを作ることで、例えば複数店舗から同一ユーザーに関する苦情があれば、不審ユーザーと定義することができる。『楽天は店舗は取り締まってもユーザーは全然取り締まらない』というような声が出ることもあるが、そうではないことをメッセージとして示したい」(野原執行役員)。
スマホ向けに商品情報最適化
店舗向け決済代行サービス「楽天ペイ(楽天市場決済)」については、4月から一部の新規店舗で運営を開始しており、8月からは既存店舗での導入が始まる。今後のスケジュールとしては、11月に導入を拡大、12月には受注API の仕様を公開する予定だ。
スマホでの注文が多くなっていることから、商品情報の最適化を進める。これまではパソコンでの表示を前提としていたため、商品名の前に【3000円以上送料無料】【店内全品ポイント5倍】など、モール内検索で有利になるような販促がらみの情報を付加することが多かった。ところが、画面の小さいスマホで閲覧すると商品名が表示されず、離脱の原因となっていた。
検索機能から商品ページへの流入割合は40%で、消費者からは「目的の商品にたどり着くまで時間がかかる」「検索ワードと関係ない商品が表示される」「商品の絞り込みがうまくできない」といった声が挙がっているという。
そこで同社では、データ最適化やサーチロジック強化などを進めている。商品登録ガイドラインを9月に公開する予定で、今後はこのガイドラインに沿った商品登録を進める。「商品登録の際に、どういった情報をどの項目に入力すべきかを明確にした」(黒住執行役員)。「送料無料」や「ポイント5倍」といったプロモーションの情報については入力する欄を分けるようにした。
サーチロジック強化については、ガイドラインが守られた商品を検索結果の上位に表示する。商品とは無関係なキーワードの記載や商品ページでの隠し文字などを禁止し、表示する順位を大きく下げる。黒住執行役員は「買い物しやすいサイトにすることで、途中で離脱するユーザーのうち、少なくとも3割は購買に転換できるのではないか」と説明している。