――カテゴリーマネージャーとは具体的にどういった業務を担当されているのでしょうか。
越境ECのカテゴリーマネージャーは大きく三つの仕事がありまして、1つはニーズとトレンドの分析です。私も含め、日本に居住していますとアメリカでは何が、ヨーロッパでは何が売れているのかなど海外の状況が中々見えないため、それをきちんとeBayの販売データや検索データなどを含めて分析してセラーさんに密に伝えるということです。ニーズとサプライのマッチを極力スムーズにリアルタイムに行っています。
また、2つ目にセラーさんをエンパワーメントしていくことも大事な仕事です。電話を掛けることもありますが、極力、フェイストゥフェイスでお会いするようにしています。5月には「セラーアップデート」と称して、東京と大阪にトップセラーさんを200社ほどお招きします。そこでは、最新のeBayのポリシーの伝達から、売れ筋情報、役に立つツールなどをお伝えいたします。今回は目玉として、初めてアメリカからカテゴリーマネージャーが出席します。日本には中古も含めたとても強いアイテムがあることは分かっているので、セラーさんと直接話す機会として、どういった商品を探しているかなどのメッセージを伝えに来るのです。また、本当にベーシックな話ですが「出品の最適化」も行っています。eBayのポリシーは英語で書かれているところも多いので、中々読まれないこともあります。そうしたセラーさんに対して、変えていくべきポイントなどを伝えています。「ここはJANコードをきちんと入れた方が良いですよ」といったことや、アイテムのタイトルについてなどです。極力、行動の最適化を行うことでセラーさんをエンパワーメントしていっています。
そして、3つ目がマーケティングです。我々がeBayのアメリカサイトを持って運営しているわけではありません。こちらはあくまでもセラーさんの方に向いて、いかにしてアメリカやヨーロッパで売れるようにするのかという仕事をしているのです。その中で、できればアメリカサイト側でPRを行ってほしい商品などもあり、サイト側に日本のセラーをプロモートするような仕事も行っています。先日も日本の漫画を探しているという話をアメリカのカテゴリーマネージャーから受けたので、北海道のセラーさんをご紹介しました。こういったやり取りは日常的に行っております。
日本から売れている商品の6割が中古
――eBayでは中古商品が強いというイメージがありますが、その背景について教えてください。
大きくは、現在、eBayで日本から売れている商品の60%が中古、40%が新品という内訳です。なぜ日本の中古がここまで海外で人気があるのかということが一つのポイントになるかと思います。
まず、新品・中古に問わずという話で言いますと、日本のセラーさんの商品は「偽物」の心配がないということが挙げられます。本当に安心して購入できることが一番評価されているポイントです。そして、高品質な商品が適正価格で買えるということもあります。私が直接担当しているのは「コレクタブル」のカテゴリーで、これはフィギュアのような収集するものなどですが、アメリカで購入すると日本の3倍の値段になるようなケースもあります。実は国際送料を含めても日本から買う方が安かったりもするのです。こうした流れがあって、日本の中古商品が選ばれて買われているということです。
――特にどういったジャンルの商品が人気ですか。
元々、日本のセラーさんの中古商品で一番伸びているカテゴリーというのが、「ルイ・ヴィトン」「シャネル」「グッチ」といった中古のブランドハンドバッグです。最近では「オメガ」「ロレックス」といった高級腕時計も売れています。また、カメラについてもヴィンテージのレンズからフィルムカメラ、最新のレンズまで、特に中古商品の動きが良いです。中古とひとくくりに言っても、現行モデルの中古だけでなく、フィルムカメラのように古くなればコレクター的な価値があって売れているものもあります。割安感だけではなく、日本でしか手に入らないもの、ヴィンテージものであることも中古カメラの価値に含まれます。eBayには1億8000 万人の(アクティブ)バイヤーが全世界にいますが、彼らがここで買い物をする強い理由として、我々は「トレジャーハンティング」と呼んでいますが“宝探し”をしているという意味があるかと思います。
それから、楽器というものも注目されています。日本には「ギブソン」や「フェンダー」といったアメリカ製のギターが大量にあり、これもやはり日本ならではの希少性や偽物がないという信頼性を背景に支持を得ています。ほかにも日本製ブランドでもシンセサイザーや管楽器などは強く、新品・中古を問わず売れています。
――日本の商品だけでなく、海外ブランドの商品までも日本から購入するケースがあるのはなぜでしょうか。
元々、日本の中古品業界全体で偽物を排除することに長年取り組まれています。例えば、海外の顧客が同じヴィトンのバッグを中古で買うなら日本のセラーが良いと判断するのはここ数年来当たり前の動きになっています。eBayの中では、1回でも偽物と指摘されたセラーの評価は大きく下がりますし、顧客もつきにくくなります。また、真贋判定をeBayが行ったものですというバッジを付けるツールもあり、日本のセラーさんも複数社入っています。
――コレクター視点で購入されているケースも多いようですね。
中古という観点で言いますと最近ホットなのが、レコードやビデオゲーム(ファミコン)などです。レコードに関しては最近、日本の著名メーカーから新しいレコード針やレコードターンテーブルが出てきたタイミングもあって、(2000年代に成人や社会人になる世代の)ミレニアル世代の若者を中心に人気となっています。例えば同じビートルズのレコードでも、日本限定で発売されたプラスアルファの価値があるようなものです。
ゲームについて実は今、海外でヴィンテージゲームを集めることが非常にホットになっています。中古ゲームの越境ECに特化しているセラーさんによると「なぜこんなものがこんな価格で売れるのか」という状況で、ファミコンソフト1本が数千ドルで売れるという話も聞きました。日本ではいらないと思って捨てられている物が実は海外ではいい値段で売れるということです。ほかにも段ボールにたくさん詰められた「ゲームウォッチ」のデッドストックが数千ドルで取り引きされたりもしていました。日本のオークションサイトでも高値で取り引きされているものですが、おそらく海外の方が高い値段だと思います。
――日本のコレクター商品というと、刀なども海外では人気が高いのでしょうか。
「サムライ」関係の商品はよく動きます。刀そのものは刀剣類に関する登録が必要なので、販売するのは難しいのですが、刀の「鍔」や兜、鎧などはよく出てきます。価格も高くなるのですが固定客がついているので売れているようです。
関連して、工芸品などで言うと包丁や鋏、ヒゲソリ、砥石など、日本のクラフトマンシップが生きるような道具類は動いています。あとは文房具全般も強いです。
――日本では買い手が付きにくいような中古商品に価値を見出しているのですね。
「こんなものが売れるのか」というのはeBayの中古商品全体に言えることだと思うのですが、日本では安値で売られているものがここまでの値段になるというギャップに面白さを感じます。海外の富裕層というのは天井知らずで、コレクションのためにはお金を惜しまない傾向があります。アメリカなど海外ではミレニアル世代から日本で言う団塊ジュニア世代あたりが(消費の)メインストリームとなってきていますので、お金を持てば持つほど高いものを買うようになっています。日本で現在の中高年が楽しんでいたようなアニメや、年配の方が若いころに使っていた高級カメラ、ギターなども非常に人気は高くなるでしょう。
また、日本では人口数が減ってきていることもあって、どうしても高級時計やバッグなどの買い手が徐々に少なくなってきています。国内で中古品が高値で売り辛くなっている状況の中、海外では若い消費者が高値で取り引きをしているのです。このギャップを上手く伝えていければと思っています。
過去の取引データを参考に、適切な値付けを
――国ごとの商品ジャンル別の伸び率などについては。
2018年の実績ですが、まず、今は日本のセラーさんからの配送先の約57%が北米です。次いで約18%がヨーロッパ、約16%がアジアとなっています。簡単なところで言いますと、日本と季節が真逆のオーストラリアでは冬物が夏に売れたり、今ですと現地では秋口に入るので釣り具が売れ始めるというシーズン商品の逆転現象があります。アメリカでは大きくは「アパレル&アクセサリー」が前年比23%増となり、イギリスでは近年、釣り具やゴルフ用品が売れだして「スポーツグッズ」全体では同75%増になりました。ドイツでは「ヘルス&ビューティー」が同42%増、「ホビー&クラフト」は同66%増になりました。タイは「ジュエリー&ウォッチ」が同41%増、「エンタメグッズ」が同170%増でした。台湾では「アパレル&アクセサリー」が同42%増となっています。
そのほかにも、例えばフランスでは日本のサブカルチャーが非常に強く、前述したファミコンなどのレトロなビデオゲームが売れています。ただ、これはヨーロッパ全体も含めての話ですが、まだまだ日本のセラーさんが出品することが少ないので、すべてのポテンシャルが分かっているわけではありません。そのためセラーさんにはアメリカに出しているものはヨーロッパにも全て出しましょうとお声掛けをして、その中で売れるカテゴリーがどんどん出てくると思います。
――今後、伸びていきそうなジャンルはありますか。
ファッションではストリート系のものです。背景にはアメリカでスニーカーが高値で取り引きされているということもあります。個人的にはデザイナーさんが作ったソフトビニール人形などもミレニアル世代からの需要があると思います。ハードでは工学用の測定器や自動タコ焼き器、自動寿司ロボットなど、業務用の製造機が数はまだ少ないですが、注目しているところです。
また、日本でしか発売されていない自動車のパーツも、今後はさらに伸びてくるでしょう。日本の漫画の影響もあって日本車の人気が海外で伸びており、本体そのものは買えないのでホイールやシート、マフラーなどパーツを買って取り付けるという話は聞きます。車検制度の無いアメリカでは至る所に町工場があるため、自分達で合ったパーツをフィットしていくことは当たり前に行っているようです。価格で見れば中国や東南アジア製など安いものはたくさんあるのですが、わざわざ日本から買うという時はパフォーマンスを上げるためのチューンナップを目的にしていることが多いようです。
――同じ商品であっても日本と海外で相場が大きく異なるということで、eBayで販売する際に値段の付け方が難しくなることはありませんか。
eBayはデータにアクセスしやすいこともポイントにあります。商品名を入力すれば、過去にどの価格で売れたのか直近までリストとしてフルオープンで見ることができます。それを参考にしながら値付けを行えるので、日本よりも価格が高くなる商品などを優先して出品するという形です。
また、データに関係した話としてeBayで検索されたキーワードについても毎週見て分析しています。突如動きがあるような場合もあり、例えば先日も(アニメキャラクターの)「ムーミン」が上昇したのですが、実は「ムーミンバレーパーク」が新しくできたという理由がありました。また、アメリカで個展を開いたタイミングでそのアーティストの名前が上位に来るということもあります。そうしたことを見ていって次にどういった商品に人気が集まるのかを分析しているのです。
今後はよりリアルタイムでセラーさんが情報を確認できるようにしていきたいです。現状では週1回のタイミングで売れ筋商品、検索キーワードの情報や、時折、次に期待される商品の予想などを提供しています。
――逆にeBayでは向いていないような商品はありますか。
国によって各種規制が違いますし、検疫が厳しい国や医薬品に厳しいところもあります。特に口に入れるものはよくよく調べてから注意することが必要です。ワシントン条約にひっかかるようなものまではあまり見かけませんが、最近気づいたものでは昔のギターケースに使われていた木材の「ローズウッド」が禁輸されている場合もあります。また、日本特有の商品としては意外ですが着物が売れにくいことがあります。色の好みの違いなどもありますが、何よりも着付けが必要な商品のため購入のハードルが高くなってしまうのです。
広告プログラムの効果的な活用も促す
――セラーさんがプロモーションを行う際はどのようなやり方があるのでしょうか。
1つにSNSがありますが、今は我々の方で「インスタグラム」を積極的に活用するようにお勧めしています。日本でしか手に入らないレアな物はどんどんインスタやフェイスブックを使って出していくようお話しています。例えば、商品そのものの画像であったり、入庫から検品までの作業の流れなど実際に現場の様子を撮影したものなどを上げるようなことです。
ECは直接店舗に来て頂けないので、舞台裏を見せていくことは大事だとは話しています。買い手からすれば売り手の顔が見れるのは大きいことですし、インスタなので画像に添える英語も本当に簡単な一言でいいと思います。また、レトロゲームの場合はそのゲームのコミュニティがインスタ上にあったりもするので、そこから誘導してくることもいいでしょう。積極的に使えるツールはたくさんあるので日本のセラーさんには自分のファンを増やすためにもどんどん使ってもらいたいです。
――売り上げを高めるために、品ぞろえの面で出店者が気をつけることとはなんでしょうか。
過去にeBayで売れたものを一通り見て、そこから自分の得意分野を洗い出す作業は大事です。価格で勝てるのか、品質で勝てるのか、サービスで勝てるのか、差別化のポイントを明確にしてから入っていくことです。また、セラーとしての信頼を獲得することが大事なので、フィードバッグ数を付けてもらうためには最初は赤字覚悟で売ることもあるかもしれません。eBayでは固定価格で売る以外にも、オークション形式の販売も行えるので、売れる確率が高くなる「1円スタート」の形でオークションを利用し、まずはセラーとしての取引実績を積み上げて、それから固定価格の商品を増やしていくことも良いと思います。
また、コレクタブル商品の中でもホビー系についてはとにかく数が必要です。何故かと言うとまとめ買いするケースが非常に多いからです。キャラクターグッズなどはどうせ買うならフィギィアから文房具までまとめて買いたいという消費者心理なので、例えば特定のキャラクターグッズに強みがあるのであればそこに特化していくのも一つの方法です。
――最近、eBayでは広告プログラムを開始したと聞きましたが、この活用については。
「プロモーテッドリスティング」と呼んでいるものですが、例えば商品名で検索された時、表示で上位になるのは一定のアルゴリズムから導きだされた商品ですが、その内の数商品は広告出稿されたセラーさんの商品が「sponsored(スポンサード)」と表記された広告枠に出るようになっています。
広告経由で売れた際に、商品価格から成果報酬として広告費用を頂いています。その料率についてもセラーさんが1%~100%まで任意で設定することができます。料率が高いほど上位に表示されますが、おおむね5%を基準としています。ただ、いくら広告を使って上位に表示してもフィードバッグが溜まっていないセラーさんから買う顧客は少ないので、ある程度取り引きを積み上げたセラーさんから利用することを勧めています。
――英語で商品名を付けることに慣れていないセラーさんもいると思いますが、気を付けることとは。
細かいテクニックではJANコードを入れることであったり、また、日本製であれば「made in Japan」、日本から出荷する場合であれば「from Japan」、例えば工芸品を売るにしても「from○○市」など必ず表記することです。兜や刀関連の商品名については、「katana」だけではなく、「samurai」と入れることも勧めています。
とにかくきちんと買いやすいアイテムにすることが大事なので、以前、キャラクターの「仮面ライダー」のグッズを販売する際に「Masked Rider」と表記してしまったケースがありましたが、これでは全く本来の意味と異なってしまいます。先ほども申し上げた通り、eBayで実際に売れていたものを参考にするのが鉄則なので、商品タイトルに悩んだ時は過去にどのような検索キーワードによって売られていたかなどをよくよく確認することが大事です。
――そのほか、越境ECを考えている日本の企業へのメッセージなどはありますか。
繰り返しになりますが、我々もすべてを把握し切れているわけではありません。なぜなら、まだまだ扱い切れていない商品もたくさんあるからです。eBay は海外1億8000万人分バイヤーの願望が集まるところでもあります。それを上手く使っていただきたいと思います。
他国の担当者と話をすると「日本がうらやましい。まだまだそこにたくさんの商品があるじゃないか」とも言われます。確かにその通りです。日本の多くの企業が越境ECに中々踏み切れないのも英語への苦手意識があるということも背景にあるかと思います。しかしながら、先日行ったeBayで3年目以上の日本のセラーさん111社を対象にしたアンケートでは、担当者の英語力について実に66.7%が「基礎会話レベル」と回答し、「日常会話レベル」の19.8%と「ビジネス会話レベル」の11.7%を大きく上回りました。また、グーグル翻訳であったり、我々のサポートチームもあるので、あまり難しくは考えずにスタートしていただければと思います。