ドコモ傘下で成長スピード上げる【井上直也 マガシーク代表取締役】

マガシークは、2013年3月にNTTドコモの傘下に入り、10月には共同で衣料品専門の通販サイト「dファッション」を立ち上げた。新サイトでは通販慣れしていない消費者を獲得するなど、既存サイトと異なる客層の開拓につなげているようだ。マガシークの井上直也社長に売上高100億円の大台を突破した前期(14年3月期)の取り組みやファッションEC市場の現状などについて聞いた。(聞き手は本誌・神崎郁夫)

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在庫連携をカギにトータルの販売力高める

前期は2割程度の増収に

――改めてNTTドコモとの資本提携の狙いを教えてください。

これまではテレビCMを放映したりしながら「マガシーク」というサービスの認知を広げ、使ってもらえるように取り組んできましたが、新規客を獲得する手段として一番手っ取り早いのは、多くの会員を持っているパートナーと組んでトラフィックを増やし、サービスを利用してもらうことです。NTTドコモは会社の方向性として、通信事業だけでなくサービス業に力を注ぐことを打ち出していて、一環として、ECを含めたBtoCビジネスを成長の柱に位置付けています。BtoCのファッションECで成長したい当社との思いが一致して資本提携を結びました。

――2013年10月に開設した「dファッション」の状況はいかがですか。

「マガシーク」出店ブランドの大半が「dファッション」にも参加してもらっています。ブランドさんには売り上げを20%くらい増やしますと説明していて、その分、在庫も積み増してもらった結果、「dファッション」はスムーズに立ち上がりましたし、当社の2014年3月期の売上高も前年の約95億円から2割程度の増収となり、110億円を超えました。とくに、「dファッション」がスタートした下期の伸びが大きいです。

――両サイトの顧客属性に違いは出ていますか。

「dファッション」のユーザーは「マガシーク」会員とは少し属性が異なっていて、ECのライトユーザーや圧倒的にドコモの携帯払いで商品を購入する会員が多いのが特徴です。新サイトは電話料金と一緒に支払えたり、会員登録も不要で、ネットワーク暗証番号だけで契約する自宅に商品が届くという手軽さが受けています。

当初の見込み通り、通販にあまり慣れていない消費者の獲得につながっていると言えます。「dファッション」が売れた分、「マガシーク」がマイナスになっては意味がありませんが、両方が伸びていますので、狙い通り、違う層の取り込みに成功しています。

――メンズのアイテムも好調のようですね。

メンズの売り上げは「マガシーク」では全体の10%に届かないくらいですが、「dファッション」は30%くらいあります。「マガシーク」はレディースのイメージが強いこともあって、なかなかメンズを伸ばし切れていませんでしたが、「dファッション」を始めたことでメンズを開拓するスピードも上がりました。

――「マガシーク」でもメンズの扱いを増やすのでしょうか。

「マガシーク」と「dファッション」でメンズの品ぞろえはほぼ同じですが、打ち出し方や見せ方が異なります。セレクト系が売れているという状況は両サイトに共通しています。当社としては2つの売り場を持って両方で売れることで、メンズの売り上げはほぼ倍増しています。

――前期の「dファッション」の売り上げは計画通りですか。

もう少し高めの計画を組んでいましたが、それでも想定に近い数字は取れていて、手応えを感じています。加えて、アウトレット商材を扱う通販サイト「アウトレットピーク」も好調を維持し、計画を達成しました。ファッション分野でアウトレットECの業態は少ないのが実情です。

会員制のフラッシュセールサイトはありますが、常設で当社くらいのブランド数をそろえる競合は少ないですね。前期はウェブ広告をかなり強化したこともあって順調に訪問者数が伸びていて、「アウトレットピーク」は拡大スピードが上がっていると感じます。今期も同サイトは「dファッション」とともに、しっかり伸ばしていきたいです。

規模拡大路線を継続へ

――ついに売上高100億円の壁を突破しました。

80億円までは割と早くいったのですが、そこから時間がかかってしまいました。しばらく伸び悩んでいましたが、ようやくスピードが上がってきたという感じです。

前々期はテレビCMなど派手なプロモーションにコストをかけましたが、前期はウェブ広告をきめ細かく展開しました。とくに「クリテオ」など新しい広告手法が増え、効果も上がっていて、高いROIで顧客を取り込めました。テレビCMをやめた分、ウェブ広告の予算をかなり増やして効率的に新規客を開拓できました。

それと、システム刷新やスマホサイトのブラッシュアップも実施しました。見た目は大きく変わっていませんが、つながりやすさやサクサク動くようにチューニングしたことで、とくにスマホユーザーが大きく伸びました。世の中のスマホシフトという流れをしっかりつかむことができました。

――約1年前は利益よりも売り上げをとることが大事と言っていましたが、その戦略に変更はありますか。

基本的に規模拡大路線は変わっていません。ドコモもECで3000億円という大きな目標を掲げていますので、当社もしっかりと貢献したいと思っています。もちろん利益面も重要ですが、どちらをとるかと言われたら規模拡大を狙っていきます。

――「マガシーク」と「dファッション」とは在庫連携していますね。

「マガシーク」で扱う商品を「dファッション」でも販売することによって全体の仕入れも強化できています。今後はSNS系のモールと組むなど売り場を増やすことも検討しています。在庫連携をカギにトータルの販売力を高め、品ぞろえと奥行きを充実させることが成長につながります。

――ブランド側も欠品対策として自社通販サイトとモールを含めたEC在庫の一元化を進めていますが、影響は出てきますか。

当社にとっては非常にプラスとなる動きです。新サイトの「dファッション」もページビューや来訪者が多く、売り場としての価値は高いと思います。2013年にワールドさんやベイクルーズさんと在庫連携を始めたことが増収にも大きく貢献しました。在庫連携をしながら、当社としてはトラフィックを増やすことが大事です。「マガシーク」でとり切れない層は「dファッション」でとりに行きますし、「マガシーク」の既存客には、よりリピートしてもらえる施策を打ちながらファンを増やします。今後はそれ以外のチャネルへの展開もあり得ます。

――競合するファッションECモールの品ぞろえも増えますが。

これまで、ゾゾさんは一番売れていたから品ぞろえも充実できたわけですが、ゾゾさんほど売れていなくても、在庫を動かずに品ぞろえが増やせるようになってくると、ゾゾさんにとっては不利になりますよね。当社としては仕掛けやプロモーション、ドコモとのトラフィックなどを武器に売れる商品をより吸い上げて、ゾゾさんとの差を縮めていきたいです。

――ファッション通販モールに独自色を求めるブランドも多いようですが、「マガシーク」はどんな特徴を出していきますか。

「マガシーク」は“マガジン”という最初のイメージがあると思いますし、実際に画像の質が高い商品はよく売れます。ブランドさんが撮った高品質の写真も使わせてもらいながら、当社では、より欲しくなる画像や雑誌のような編集方法を考えます。「マガシーク」のトップページはビジュアルを重視していますので、「見ていて一番楽しい通販サイト」と言ってくれるファンを増やしたいですね。

――サービス面での競争も厳しくなりそうです。

現在、『マガシーク』も『dファッション』も送料無料施策を実施しています。確かに体力を消耗しますが、それを補う売り上げと成長ドライブにはなっていますし、現時点では送料を有料化すると成長スピードが落ちると見ています。

綿密な顧客分析を実施

――ドコモグループに入って変わった点はありますか。

伊藤忠商事が大株主だった時代よりも細かい分析を求められています。科学的な数字の分析を多く行うようになりましたね。結果だけでなくプロセスを重視していて、求められるKPI(重要業績評価指数)がすごく増えた分、綿密な顧客分析につながっていて、その点は非常にプラスだと思います。簡単に言えば、売れる商品をどれくらい集められているのかを数値化するイメージで、この精度が高まれば、そのノウハウは他社も欲しいですよね。当社はECソリューション事業も展開していますので、自社通販サイトを運営しているブランドさんへのコンサルティングにも生かせると思います。

――具体的には。

販売から何日か経った商品の消化率がどれくらいとか、販売直後にどれくらい売った商品は最終的にどこまで売れるかなどを分析することで、最初の入荷を最適化できます。この商品は5枚ではなくて7枚入荷すべきだったというようなことをブランドさんにもロジカルに説明することで、次回の商品調達に反映させたいです。在庫連携で解消できる部分はありますが、連携できていないブランドさんに対してはそうした緻密さが大事です。そういう分析をしているEC専業はないと思います。

売り上げの10%をメール経由でとりたい

メルマガの開封率が改善

――メルマガを活用したマーケティングにも積極的ですね。

売り上げに直結した施策としては、2013年夏にレスポンシスさんのマーケティングソリューションを導入し、さまざまなシナリオメールを実践したことでメルマガの開封率が圧倒的に改善しました。シナリオによっては40~50%の開封率があるメルマガもあります。

例えば、商品をカートに入れたまま離脱した顧客にその商品が残り1点になりましたというメールを配信したり、靴を買った消費者には靴のケアに関するメール、初めての購入から1週間後に送るメールなど数百シナリオを作ろうと取り組んでいます。顧客目線で届いたらうれしいメールを考えて実践し、検証していて、そのためのスタッフも増やしています。

――メルマガはまだ有効なツールということでしょうか。

当社では、売り上げの10%をメール経由でとりたいと思っています。とくに「アウトレットピーク」はメール経由が増えています。もうメールの時代ではないと思っていましたが捨てたものではないですね。「アウトレットピーク」は半年でメールの配信数が倍増しました。メール会員限定のスペシャルな特典が付くお知らせを増やし、サイトで何度も告知しました。

――今期の重点ポイントについて教えてください。

「dファッション」の伸びしろは大きいですので、メンズ商材や靴、バッグといったファッション雑貨、下着なども強化したいですね。「マガシーク」ではそこまで重視していなかったカテゴリーも「dファッション」では充実させて、新客を囲い込むことが最優先課題です。もちろん、「マガシーク」や来訪者数が伸びている「アウトレットピーク」にも期待しています。アウトレットサイトの訪問者は1年前の5割増くらいになっています。

今期は前期以上の拡大を狙っていきます。全社的には、タイミングは明言できませんが、次は200億円を目指したいですね。

◇プロフィール◇

井上直也(いのうえ・なおや)氏
1965年生まれ。87年早稲田大学法学部卒。伊藤忠商事に入社。ユニフォームを扱う部署、香港勤務を経て2000年マガシークを立ち上げる。06年11月に東証マザーズへ上場、13年3月NTTドコモ傘下に入り同年7月に上場廃止した。趣味は料理で休日は3食作る。香港時代に覚えた中国料理は北京ダック以外ならなんでもつくれるという腕前。よく読む本は、時代小説とビジネス書。

◇編集後メモ◇

売上高100億円を目前に足踏み状態が続いていたマガシークですが、ドコモのグループ入りを決め、「dファッション」という新しい売り場を設けたことで、“成熟期の少し手前の段階”にあるファッションEC市場において、思惑通り通販のライトユーザーや男性客の獲得につなげているようです。井上社長は「現時点では送料を有料化すると成長スピードが落ちる」とし、引き続き規模拡大路線を進めることで新規客の開拓に力を注ぎ、巨大モールに成長した「ゾゾタウン」との差を縮めたい考えのようです。伊藤忠商事からドコモに大株主が代わったことで、“綿密な顧客分析”という新たな武器が加わったマガシークが今期も大きく成長できるのか注目されます。

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