靴とファッションのネット販売を手がけるロコンドは5月7日、アパレル大手ワールドが保有するファッションウォーカー(FW)の全株式を取得することで基本合意し、7月をメドに同社の衣料品通販サイト「ファッションウォーカー」の運営を引き継ぐ。ロコンドはアパレル分野の品ぞろえ拡充を図るとともに、既存ユーザーよりも若い20~30代女性の取り込みを加速する狙いだ。
株式譲渡契約締結は6月、譲渡実行日は7月を予定しているが、現時点で買収額は未定とする。ロコンドによると、買収完了後も「ファッションウォーカー」のサイトは残して運営を続けるが、在庫は「ロコンド」サイトと共有化し、「ロコンド」内でも取り扱うことでMDの強化や顧客層の拡大につなげる。
FWはメーカーの自社ECの構築・運営を請け負うEC受託事業も手がけているものの、当該事業は今回の買収に含まれておらず、EC受託事業はワールドグループが継承する予定だ。当該事業はロコンドのプラットフォームに載せ替えることが難しいことに加え、ワールドとしてもデジタル領域でのソリューション事業を強化していることから、今回の買収内容からは除外されたようだ。
ロコンドは、2019年3月下旬にも千趣会からレディース衣料の通販サイト「モバコレ」を手がけるモバコレを買収し、「ロコンド」内に吸収して「ロココレ」として展開している。今回、FWの買収でアパレル企業とのさらなる関係強化に努め、アパレル商材の品ぞろえ拡大を図る。
加えて、ロコンドは今期(2021年2月期)、ユーチューバーやインスタグラマーなどと組んでコラボ商品の開発を本格化し、40代が中心のロコンドユーザーよりも若い年齢層へのアプローチに着手する戦略もあり、25歳~39歳が主要顧客である「ファッションウォーカー」の会員基盤を獲得できるだけでなく、当該層への提案力強化につなげる。
ロコンドの20年2月期の商品取扱高は前年比29.5%増の約183億円。「ファションウォーカー」については、近年はファッションECモールの競争激化などから縮小傾向にあったと見られるが、年間取扱高は50億円程度だ。買収完了後は、「ロコンド」と「ファッションウォーカー」で双方の商品を販売し、両サイトの売り上げ拡大を図ることで、ゾゾに次ぐファッション専業ECモールで2位グループの先頭に立ちたい考え。
コスト面では、ロコンドの持つ物流・ITインフラに統合して固定費を削減し、「ファッションウォーカー」事業としても利益を確保したい意向だ。
ECモールの競争激化
ワールドは今回の事業譲渡について、昨今のファッションECモールの競争環境の激化や配送費の大幅上昇などでECモール運営事業の収益性が悪化し、FW単体での収益改善は困難と判断。より成長性と収益性が見込めるソリューション事業へのリソース集中を図る目的でモール運営事業の譲渡先を模索していたという。ワールドグループは今後、自社通販サイト「ワールドオンラインストア」を中心とした同社ブランドのEC事業や、外部企業のEC受託事業の事業拡大に集中する考えだ。
ファッション専業のECモールについては、17年11月に三井不動産グループが「アンドモール」を、18年2月に衣料品大手のストライプインターナショナルが「ストライプデパートメント」を立ち上げたのに続き、19年11月にはジュンとマッシュホールディングス、デイトナ・インターナショナルの有力アパレル3社が合弁会社を設立して「スタイルヴォイスドットコム」をオープンするなど、ここにきて新規参入が相次ぎ、生き残り競争が激しくなっている。
なお、FWは19年12月24日に設立し、ワールド傘下のファッション・コ・ラボから20年3月1日を会社分割による事業譲渡の効力発生日として事業をスタートしたため、公表されている業績は20年3月単月のみで、売上高は9億800万円、営業損失が6300万円、経常損失が6300万円、当期純損失が5500万円となる。
M&Aで靴のPB展開も
ロコンドは、19年3月にモバコレを買収して若年層の取り込みと取引先アパレルとの関係強化を図ったが、中核である靴のカテゴリーでもM&Aに積極的だ。
18年10月には婦人靴の企画・販売を手がけるミスズアンドカンパニー(旧三鈴商事)を完全子会社化(※20年3月1日付でロコンドが吸収合併)。旧ミスズの生産背景を生かしたオリジナルブランドの開発に着手し、19年秋にはパンプスを中心に展開するブランド「ビオラアンドエマ」をスタートしている。
同ブランドは「ロコンド」内の販売データをもとに、本革を使ったメードインジャパンのパンプスなどを買いやすい価格(9800円)で販売する。商品によって当たり外れはあるものの、サイト内の売上ランキングでトップ20の常連になるなど、一定の成果を上げているという。
加えて、今期の重点戦略のひとつに掲げるインフルエンサーとタッグを組んだD2Cブランドの開発についても生産背景をフル活用。4月3日に予約販売を開始した人気ユーチューバーのヒカルさんとのコラボシューズについては、400万人弱のチャネル登録者数を抱えるヒカルさんの動画配信効果もあり、約1週間で6億円を販売するヒットとなり、11年2月の「ロコンド」開設時から現在までの取り扱い全アイテムの売上ランキング(ヒストリーランキング)でも同コラボシューズが6位までを独占するなど、好調な滑り出しとなった。
また、タレントのスザンヌさんとタッグを組んだD2Cブランド「セレンセクール」を5月初旬にスタート。まずはサンダル9型の予約販売を開始したところで、ロコンド田中社長のユーチューブチャネルにスザンヌさんが登場して新ブランドを紹介している。M&Aの取り組みではさらに、ロコンドは4月中旬に靴メーカーであるサン・トロペの株式の過半数を取得することで基本合意したことを発表。同社は人気ブランド「セヴン・トゥエルヴ・サーティ」を中心に年商約15億円の靴小売店を展開し、伊勢丹新宿店など大手百貨店に販売網を持つことから、D2Cブランドの露出や販売チャネルとして百貨店内の売り場を活用することも検討していく。
ファッションECはサービス面での差別化が難しくなっている中、「商材としての差別化が必要」(田中裕輔社長)とし、その中核としてD2Cを展開し、それぞれ10億円規模のブランドに育てていきたい考え。