ジャパネットホールディングスが好調に業績を伸ばしている。コロナ禍による巣ごもり消費を背景に生活家電などの売れ行きが伸び、上半期(1~6月)の売上高は前年同期に比べて拡大しているようだ。一方で通販と両輪の同社の事業の柱として、昨年から本格展開し始めたスポーツ・地域創生事業にとって、コロナ禍は“逆風”で事業面では苦戦を強いられている。ただ、そうした中でも新しい試みを次々に開始するなど攻勢を強めている。同社を率いる高田旭人社長が語るコロナ禍の中での状況や今後の方向性とは。
1~6月は売り上げ拡大 生産者支援の取組み反響大
上半期の売上高は昨対増
─コロナ禍で近年、注力してきたクルーズ旅行の催行を中止せざるを得なくなったなど影響が出ていると思いますが上半期(1~6月)までの状況は。
事業面でいうとコロナはマイナスとプラス両方の影響が出ています。マイナス面ではコロナの影響で今年の春分から予定していたクルーズの催行を中止したため、お客様に販売していた売上額では約108億円がキャンセルとなったこと。また、当社グループのプロサッカークラブ、「V・ファーレン長崎」でも試合の中止などにより、恐らく今年は10億円近い赤字が出るだろうと思います。ただ、それ以上にプラスの効果が大きいです。“巣ごもり”や1人10万円の特別定額給付金の支給などにより、通販事業が伸び、上半期の全体の売り上げは増えているはずです。
─ 売れ筋は。
全カテゴリーで伸びていますが、特に動いているのは掃除機、炊飯器、寝具など家で使用する商品が非常に売れています。加えて、(2018年6月から開始した天然水の製造から水および専用ウォーターサーバーの配送・設置、メンテナンスなどすべて自社グループで一貫して手掛ける)ウォーターサーバーの販売も非常に伸びており、生産が追い付かないほどです。これも自宅で過ごされる方が増えたことなどによる需要増も大きいと思おますが、当社としてもウォーターサーバーには注力して品質はもちろん、価格面でもかなり、がんばっていたので、それらが加わって強い売れ行きにつながっていると思います。
「会社として強くなれた」
─コロナの感染拡大を受け、販売先が減少した生産者を支援する目的で各地の生産者から直接仕入れた食品をテレビ通販などで販売する取り組み「生産者応援プロジェクト」の成果は。
4月末からまず三重県の県産品から販売を開始して、以降は様々な地域の食品を取り扱い、累計で20万件以上の受注を受け、想像以上に反響は高かったです。正直、収益面でいえば家電を販売した方がよいのですが、収益云々よりも困っている生産者の方に対して当社としてできることはないかと考えた結果です。
生産者応援プロジェクトを開始したのは緊急事態宣言が発令され、飲食店が一斉休業し、商品を納入できなくなった生産者が困っているというニュースを見たことがきっかけです。出荷ができず、保存しようにも冷凍庫に入りきれずに破棄せざるを得ない、養殖魚も出荷せずにいると次が育てられないといった差し迫った状況に置かれている生産者の方々がいると知り、それから急ピッチで準備をしました。当時は多くの社員が在宅勤務体制に移行しており、バイヤーもそうでしたが、約20人のバイヤーと週2回オンライン会議を行い、緊急性の高い支援が必要な生産者はどこかなどと話し合いました。また、私も含むバイヤーなどのメンバーは取り扱う食品は実際にほぼ食べて、その商品は本当に競争力がある買う方も喜ばれる商品なのかなど、時間のない状況でもしっかりと話し合い、短期間で販売することができました。
当時、すでにインターネット上では販路のない生産者の食品を販売することで支援する取り組みを行っているところはありましたが、インターネットでの購入に馴染みのないお客様も多くいるので、当社がテレビショッピングでご紹介することでより多くのお客様にお届けできると考えました。また、やはりネット上の販売よりもテレビショッピングの方が、販売できる量が多いわけです。それなりの在庫量を抱えていらっしゃる生産者も多かったので、この取り組みの意義は大きかったのではないでしょうか。実際に生産者の方々から涙ながらに喜びの声なども頂き、本当に喜んでもらえました。それは本当に通販事業者冥利に尽きるというか、その言葉で当社の社員みな元気になりました。限られた時間の中で形にできたということも含め、今回の経験を通じて会社としても強くなれたと思います。生産者応援プロジェクトはもともと7月末までと考えていましたが、困っている生産者がまだまだいるので続けようと思っており、引き続き調査・準備を進めているところです。
コロナで働き方に変化
─コロナ禍は企業の働き方を変えています。
今までは集まる、通勤するということは当たり前で、みなそこは疑わなかったわけですが世界は変わりました。当社も3月末から在宅勤務を始め、4月から社員の半数以上をリモートワークとしました。6月からは段階的にリモートワークを解消し、現状は月に2回、隔週月曜日を「リモデイ」として、原則、リモートで働こうという日を設けています。業務内容にもよりますが、リモデイは多くの社員が在宅で勤務しています。
また、リモートワークによって、打ち合わせや会議もオンラインがベースになりました。各拠点にオンラインでの打ち合わせ用として周りを囲った1人席を用意したり、もともと導入していたテレビ会議システムを廃止して、オンライン用テレビを全拠点合わせて50台以上導入したりしています。
加えて、コロナを機に情報共有の大切さがわかったことは大きいです。4、5月の原則在宅勤務期間中に、木曜を除く毎日午前9時から30分間にわたって「ユーチューブ」でグループ会社それぞれの役員や部門長が今、取り組んでいることやこれから取り組もうとしていることなど現状や方向性などを報告する全社朝礼の配信を行っていたのですが、社員からは「各社が取り組んでいることがよく分かった」「会社の動きを知ることができた」などの声が寄せられていまして、想像以上に直接的な情報共有が効果的だと実感しました。
それを受けて7月から新ツールを導入したところです。社員が個人の携帯電話に入れて使用するアプリですね。このアプリ上で社員へ直接、伝えたい情報を発信できるようになりました。例えば、このアプリでは私の場合は「旭人のつぶやき」というタイトルとなっていますが、私を含む(ジャパネットグループの)各社の社長たちがツイッターのようにつぶける機能があり、社員に考えていることを伝えることができます。また、このアプリを通じて、社員が給与明細なども確認できるようにしました。便利なことはもちろんですが、そうなると「給与明細を印刷する・配布する」という仕事がなくなるなど効率化にもつながっています。このほか、社員を組織ごとに顔写真付きでプロフィールなどを見られるようにしており、例えば趣味を切り口に検索して、好きなプロ野球チームで検索すると全拠点の「〇〇チームのファン」の社員が分かる機能などもあり、試合中にファン同士でコメントを送りあったりしています。また、先日は新人社員の自己紹介動画をアプリ上で見られるようにしました。そうしたことでコミュニケーションが始まるツールにもなっています。
─リモートワークを恒常化する事業者も出てきています。
会社への通勤という当たり前と思っていたこともコロナによってそうした常識が変化しています。その時に会社としてコアにしているものを見失わないようなジャッジができるか。経営者としてそのバランス感覚が大切だと思っています。例えば、働き方として在宅勤務なのか、オフィスで働くのかという議論もそう。確かにコロナにより、リモートワークを導入せざるを得なくなり、不安ながらも実際にやってみた上での率直な感想としては「意外に問題ないな」と感じました。多くの企業もそうなのではないでしょうか。
ではそれを受けて今後、リモートワークを恒常化するかというとそれは別途考えなければいけないと思っています。リモートワークを恒常化するのはある意味で簡単です。ただ、時々の状況や会社として大切にすることを考える必要があると思うわけです。もちろん、リモートワークのメリットもあります。ただ、一方で完全に在宅勤務としてしまうことがよいことでしょうか。コロナ自体もそうですが、先行きに不安を持っている人もいます。そうした状況で、皆が常に顔を合わせない状態というのは危険ではないでしょうか。オンラインでも話はできますが顔を合わせる時間をどれだけ作れるかも大事。また、企業文化や一体感など大切にしてきたものを失ってしまうことになるのではないかと危惧するところもあります。そのバランスを判断して、その判断基準をすべてオープンに社員に説明をする責任が経営者にあると思います。時々刻々と色々なことが変わる中で、様々な判断をしていきますが、とにかく何を考えているかを社員には話していきたいです。
コールセンター拠点は分散化へ
─コールセンターでも新しい働き方の取り組みを行っていますね。
コロナの感染拡大を受けて、コミュニケーターの安全性を優先し、また、コールセンターの密集状態をなくすことに加えて、緊急事態宣言で休業せざるを得ず、苦しい状況のホテル業界の力になれればという想いから、福岡市内にある休業中のビジネスホテルを借り受けてコールセンターとして1人1部屋で電話対応業務を行う取り組みを4月27日から開始しました。まずは福岡から始めましたが5月末からは東京でもホテルを借り受けて福岡での取り組みと同様に顧客対応を行なっていました。
現状は福岡では4棟のホテルでコールセンター業務を継続しています。9月末で終了させる予定ですが、分散拠点化は進めていきます。これまで福岡市内のコールセンターは基幹センターと西新地区に設置した小規模な拠点で業務を行ってきましたが、この度、新しい拠点を追加で借り、稼働させ始めました。これに加えて、10月からは250坪程度くらいの広さの拠点をあと3つ、稼働させるように準備を進めています。
やはり、コロナが終息しない中で密な状態は避けたいですし、従業員の通勤距離を短くしたい。コミュニケーターの住まいの最寄りにサテライト拠点を構えて通えるようなオペレーションに切り替えていきます。なお、拠点分散化でスペースが空く予定の基幹センターにはインターネットやペーパーメディア(紙媒体)の制作部署やシステム部署の一部を各拠点から異動させようと考えています。
大きな流れとして拠点は地方回帰が必要だと思っており、東京は縮小させ、福岡や長崎、佐世保など地方の拠点を増やしていくなど拠点戦略の見直しを行っていきます。
スポーツ・地域創生事業の今後
─コロナは通販事業にとっては追い風ですが昨年から本格化させたスポーツ・地域創生事業にとっては逆風ではないでしょうか。
本当に恵まれていることに我々の通販業界はコロナ禍の中で数少ないほぼ逆風を受けません。その中にいる我々がコロナだからと言って、スポーツ・地域創生事業について立ち止まるべきかと悩みました。その上で、こういった時だからこそ、日本を、地元の長崎を元気付けたいと7月に新しい取り組みを発表しました。ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(Bリーグ)への参入に向けて、長崎に初のプロバスケットボールクラブを立ち上げるという発表や8月7日に長崎市内で当社グループが運営管理する稲佐山公園で開催した「稲佐山音楽祭2020」などですね。コロナで先が見えず、立ち止まりたくなりますが、幸いなことに通販事業を生業として前に進むことができる状態である我々は立ち止まらず、進むべきと思っています。
─2024年に完成予定で現在、長崎市内に建設中のサッカースタジアムを中心とした複合施設「長崎スタジアムシティ」の運営に携わる管理職の人材募集も7月21日から開始しました。
当社が地域に、社会にできることは何だろうと考えた時に、コロナで人材の流動性が高まり、一方でその受け皿が減っている今こそ、おこがましいですが雇用を生むのが我々のやるべきことなのではないかと思いました。
先を見据えて想いを持った人に良い機会を提供したいと。当然、当社にとってもよい人材を集めるチャンスでもあります。募集はスタジアム、ホテル、アリーナなど各施設の事業責任者や行政折衝マネージャー、料理長など幅広いポジションを募っています。10人程度は採用したいと考えていますが、人ありきで幅を持って採用したいです。例えばホテル管理の責任者で本当に素晴らしいプロフェッショナルに来て頂いた場合、複数名を採用する可能性はあります。その場合はひょっとするとスタジアムシティのホテルができる前に、長崎でホテルを経営するようなことも視野に入れています。同じく想いとスキルを持った料理人が採用できたら先に飲食店の運営をやってしまうかもしれません。
─ジャパネットグループでホテルや飲食店の運営に乗り出すということでしょうか。
コロナによって、長崎の経済にも逆風が吹いています。長崎の地域創生という観点で長崎のホテルや飲食店などが苦しくなり、そこをジャパネットが代わって行うことが長崎にとってプラスと判断すれば、参入するという選択肢も十分にあると思っています。
ピンチの中にあるチャンスを拾っていく
BS 局の進捗は「順調」
─昨年、総務省から認定を受け、新規参入するジャパネットのBSチャンネル「BSJapanetNext(仮)」の開局が来年に迫っています。進捗は。
順調です。我々には撮影の技術はあり、また、経験豊富なスタッフもおり、テレビ局をゼロから作るために経験を磨いかり、ハードをそろえるというフェーズは必要ありません。今、進めているのは通販でない番組も使いながら24時間、チャンネルを回していけるコンテンツをどう作っていくかです。
この半年間、そうしたコンテンツ作りにトライアルし、実際に他のBS局の枠で当該番組を放送して、挑戦を続けてきました。例えば当社でも販売しており、売れ筋の寝具について、その商品を製造している企業自体にスポットを当て、経営者の想いなどを紹介した番組を制作、放送して、そのあとに当該商品を販売する通販番組を放送したのですが、ものすごい反応がありました。また、これはコロナ禍前のことになりますが、芸能人がクルーズ船に乗って旅する本当に純粋な90分の旅番組を放送して、そのあとにクルーズ旅行を紹介する通販番組を行った時にもやはり、強い反応がありました。商品と企業のドキュメンタリーとか、商品と旅などの組み合わせは成功例と言えます。
一方で、あまりうまくいかなかった番組もあります。試行錯誤しながらやっている状況ですが、成功の割合を高められるよう努力しているところです。BS局では当然、通販以外の番組も放送していくわけですが、そこに関してはこれからです。他局から番組を購入することなどを含めてアンテナ高く、あらゆる可能性に対応できるよう準備を進めています。
売上より何ができるかが大事
─ 下半期の見通しは。
通販は数少ないコロナ禍でも業績に関してはネガティブな要素がない業界です。恐らく今期通期(2020年12月期)も上半期までの状況のまま業績は伸びるでしょう。ただ、複雑です。売り上げが伸びるからコロナが続けばよいとは全く思っていません。社内でも今年の売上目標などは言っていません。むしろ、(業績は)落としてもよいから、きちんとやるべきことはやろうといっています。
─やるべきこととは。
業績を伸ばすことよりも、当社が世の中にとって何ができるのかということの方が大事です。「生産者応援プロジェクト」などはまさにそうです。これから第2波、第3波が来るかもしれません。その時に通販という販路を持った社会インフラとしての役目を果たすべきだと考えています。そこでどういうやり方だと貢献できるのか、意味をなすのかというところに労力を使っていきたいです。
地域創生事業も同じで、何ができるのかと考えていきたいです。こちらに関しては正解が難しいところもあります。例えば長崎を盛り上げたいと、何か協力したいと考えますが、その結果、そこに人を呼び込むことがプラスとなるのか。状況によってはマイナスにもなります。難しいですがバランスを考えていきたいです。
間違いないものをやり続ける
─コロナは通販には追い風ですが、その分、新規参入も増えており、競争は激化していくでしょう。
そうでしょう。こうした状況になれば、多くの事業者が通販をやろうという発想になるはずだからです。ただし、通販への参入事業者が増えることはコロナがなくとも想定済みです。そうした中で我々がこだわってきたのが配送・設置やアフターサービス、そして商品の目利き力でこれらが強みとして当社の武器になると思っています。通販での成功の条件というとチャネルや訴求のための方法論などがよく取り上げられますが、通販の主役はあくまで商品であり、サービス。参入が増えて競争が厳しくなるが、間違いないものをやり続けていればお客様はついてきてくださると思っています。
─ 先が見えない時代です。どう事業を進めていきますか。
当社が今まで販売してきた商品・サービスは外で楽しむものより、家で楽しむものがほとんど。間違いなく家で過ごす人が増える流れの中では、これまで取り扱ってきた商品をさらに磨いていくということがベースです。当社ではその通販とスポーツ・地域創生という2つの事業を柱にしているわけですが、コロナ禍で通販は完全に追い風でスポーツ・地域創生は完全に逆風。この2つの事業をどちらも同じがんばり方で走ることでリスクヘッジになります。今後、コロナが落ち着いてきた場合、絶対に反動でリアルが求められるはずで、その時にスポーツや飲食事業など地域創生事業をきちんと当社流に訴求していければ必ず良い方向に向くと考えています。
経営者は会社を皆とともに成長させ続けながら継続させていくことが役目だと考えています。そういう意味で両事業をきちんと走らせて、先ほど説明したように例えばホテルや飲食店、不動産などの参入やM&Aなどその時々の状況を見ながら経営者として判断を、会社にとってよいと思う投資はきちんとしていきます。常に変化をみながら、ピンチの中にあるチャンスを拾っていこうと思っています。
髙田 旭人(たかた・あきと)氏
1979年長崎県生まれ。東京大学卒業後、証券会社を経て、ジャパネットたかた入社。バイヤー部門、コールセンター部門、物流部門の責任者を経て、2010年にジャパネットコミュニケーションズ代表取締役社長となる。2012年ジャパネットたかた取締役副社長を経て、2015年1月、ジャパネットホールディングス代表取締役社長に就任。2019年には通信販売事業に加え、スポーツ・地域創生事業をもう一つの柱とし、更なる取り組みを進める「リージョナルクリエーション長崎」を同年6月に設立、代表取締役社長に就任。現在はグループ会社含め4社の代表を務める。