大阪府警、ASPに家宅捜索か、ウェブ広告の監視強化進む

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ウェブ広告、「アドネットワーク」の闇

 20年7月に起きた「ステラ漢方事件」は、ウェブ広告業界に衝撃を与えた。大阪府警が健康食品の広告における「未承認医薬品の広告の禁止」の規定を前提に、広告主だけでなく、これに関与した「何人も」を規制する薬機法の「何人規制」を発動。広告主のステラ漢方だけでなく、広告代理店関係者、広告の制作会社関係者らの逮捕に踏み切ったためだ。だが、警察当局によるウェブ広告監視は、まだ始まったばかりだ。大阪府警はすでに20年末から、アフィリエイト・サービス・プロバイダ(ASP)の家宅捜索など、新たな事件捜査に着手している。

活況なウェブ広告業界に冷や水浴びせた「ステラ漢方事件」

 「3年で売上高100億円」。ここ数年、ウェブ広告業界は、そんな驚異的な成長も可能にするバブルに沸いていた。証拠が残りやすく、取締りが容易なテレビや新聞、ラジオなど「オールドメディア」と呼ばれる媒体への広告表示規制が厳しさを増す中、広告主の多くはこぞって、監視の目が届きにくいウェブ市場に舵を切り始めたためだ。とくに隆盛だったのは、健康食品や化粧品のEC。こうした背景もあり、19年、国内のウェブ広告費は20%増の約2兆円に到達し、テレビの広告費を始
めて抜いた。

 これに冷や水を浴びせたのが、冒頭の「ステラ漢方事件」だった。大阪府警は、20年7月、「ズタボロになった肝臓が半年で復活」などと医薬品的効能効果をうたい、健康食品「肝パワーEプラス」を販売していたとして、健康食品通販を行うステラ漢方の従業員を逮捕した。広告違反の内容自体、業界に身を置くものであれば、誰でも「アウト」と分かるオーソドックスなものだった。

 衝撃を与えたのは、広告掲載に関与していたとして、広告業大手のソウルドアウト従業員など関係者系6人の逮捕に及んだことだ。これまで警察当局が「何人規制」を厳格に適用したケースはなく、代理店、制作サイドに動揺が広がった。

ソウルドアウトは「ステラ漢方事件」を受けて広告審査の厳格化を進めている

明確な考査基準なく、違反の蓋然性高い広告垂れ流し

 だが、一連の事件の背景の中で見過ごされてきたものがある。「アドネットワーク」をめぐる業界の構造的な問題だ。

 アドネットワークは、ウェブサイトに広告を配信するプラットフォーム。システムを構築する配信事業者は、媒体社に広告の配信・分析システムを提供する。異峰、媒体社は自社のウェブメディアへの広告配信を委託する。

 有名どころは、百度(バイドゥ)子会社のpopIn(ポップイン)、GMPアドマーケティング、Zucks(ザックス)、Logly(ログリー)、Speee(スピー)、Taboola(タブーラ)など。中には、1000前後の媒体社をネットワーク化する事業者もいる。媒体社にとっても、アドネットは、ウェブメディアのマネタイズを図る上で無くてはならない存在になっている。

 アドネットワークを通じて配信された広告が不適切と判断されやすい理由はシンプルだ。

 新聞やテレビ、ラジオなどのメディアの多くは、日本新聞協会、日本民間放送連盟など媒体ごとに自主規制団体が存在しており、一定の考査基準を共有している。社によりムラはあるものの、放送各局、媒体社はそれぞれ考査担当者を配置し、これを運用する。一方、ウェブメディアはこうした自主規制が効きにくい構造にある。

 本来、違反の蓋然性が高い広告は、配信事業者、媒体社が水際でブロックできる余地がある。それが媒体の信用にも関わるため、各媒体社は考査専門の人員を配置し、掲載広告のチェックを行う。

 アドネットワークもポップイン、ログリーは、日本広告審査機構(JARO)の加盟社。ログリーは東証マザーズに上場しており、ザックスは電通が53%を出資するCARTAHOLDINGS(カルタホールディングス)のグループでもある。

 ただ、配信事業者は、広告を配信するのみであり、自らが表にでることはない。媒体社も、ウェブメディアの実質的な審査を配信事業者に丸投げしている。「タブーラなど一部は、第三者機関の薬機法チェックの証明が必要だが、アドネットワークの多くは、審査がザル」(代理店関係者)、「アドネットワークも審査を緩くすればクリック率が上がり儲かる。代理店も自重しては市場で強い広告と戦えず、自然過激になる」(別の代理店関係者)という中、薬機法や景品表示法の観点から問題のある広告が大量に垂れ流されているのが実情だ。

 そもそも、両者はあくまで広告主に配信・掲載を依頼された「仲介者」。遵法意識は醸成されにくい。自らウェブメディアを持たない配信事業者であればなおさらだ。実際、「ステラ漢方事件」で摘発対象になった広告の一部
もポップインにより配信されたもの。同社もその事実を認める。

 こうしたウェブ広告の構造に、前出の関係者らは、「請け負った代理店も悪い。顧客獲得を優先する広告主も悪い。けれど、業界を根本的に変えるには、媒体社、アドネットワークも変わる必要がある」、「本来はJAROが適正化すべき。だが、加盟は企業の信頼を得るためのロビー活動になっている」と指摘する。

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