渡辺三津子(ファッションジャーナリスト) × 冨永愛(モデル) × 仙波レナ(スタイリスト)

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ファッション業界から見たアパレル EC の「今」

「 Amazon ECサミット2022 」の座談会より

 コロナ禍を経て、ファッション業界の潮流にも様々な変化が生じている。急速なECシフトが進む中で、アパレルECに求められることは何か。また、ファッションメディアには、どのような変化が起きているのだろうか。ファッションジャーナリストで元VOGUEJAPAN編集長の渡辺三津子氏、トップモデル冨永愛氏、トップスタイリストの仙波レナ氏によるトークセッションの模様を紹介する。ファッション業界をリードする3人による座談会から、アパレルECの今を展望する。

(10月12日開催の「AmazonECサミット2022」の「ファッション業界から見るECアパレルのトレンドとAmazonFashion」より内容を一部要約・抜粋)

ファッションや美への欲望がアパレルEC初体験のきっかけに

購入もECへシフト

─逢坂:コロナ禍でデジタルシフトが進みましたが、洋服の買い方に変化はありましたか。

渡辺: 大きく変わりました。実は、コロナ前はECで洋服を買ったことがなかったんです。国内のみならず、海外のECも含めて一度も。やはり洋服はしっかりと見てから買いたいし、デバイスの画面だけでは納得しきれない部分がありました。ところがコロナ禍になり、行動が規制されて自由に買い物にも出かけられない状況になると、自然とECに触れる機会が増えて、初めてECで洋服を購入するという体験をしました。コロナ禍においても、ファッションに対する欲望や、美しいものを見たい、楽しみたいという気持ちは強く持っていましたので。

冨永: 私もコロナ前後で意識が大きく変わりました。最初は、とにかく服を買わなくなりました(笑)。極端なことを言えば、自宅で過ごすだけならパジャマでもいいじゃないですか。でも、ファッションには魔法のような魅力があります。身に着けるだけで気分を上げ、時には人生まで変えてしまうことだってある。そんな“マジック”のような力を再び感じたいと強く思うようになりました。同時に、ファッション系のECもコロナ禍で一気に拡大しましたし、本当に変革の時代だったと思います。

仙波: スタイリストという職業柄、日本では展開していない海外ブランドの洋服をECで購入するという経験はありましたが、それほど積極的には利用していませんでした。洋服は見て触って、試着して買いたいという思いが強かったんです。ただ、コロナ禍でプライベートでもECサイトの利用が増えましたし、仕事でも撮影用の洋服をECで購入するという経験をしたことで、あらためてECも一つの選択肢だと実感しました。私にとっては大きな変化でしたね。

冨永: 私は仕事で着用した洋服を気に入って購入するケースが多いので、特に海外のブランドなど、日本にないものがECで手に入るのはありがたいですね。

─逢坂:ECサイトのどんな点に注目しますか。

仙波: 私の場合は、気になるブランドを探すところからスタートして、サイズ感や素材感など、細かい文字情報をしっかりと読んでいます。もちろん全体のビジュアルもチェックしますが、どんなブランドで、デザイナーは誰か、どんなコンセプトで作られているのかなど、そういったブランドの情報が気になります。

渡辺: 私もブランドについて納得してから購入したいと思っています。どのようなブランドで、どのようなコアバリューを持っているのか。背景やストーリーを知ることで、ブランドに対する新たな関心も生まれるのかなと思います。

─逢坂:「Amazonファッション」の中でも、販売事業者様が自社のブランドストーリーを動画などで発信しているケースも多いです。

渡辺: ブランドに対する信頼感をどこで得るかというのも重要ですよね。ブランドについての情報をブランドが自ら発信することはとても大切だと思います。

冨永: そうした情報は、サイト内にできるだけ分かりやすく掲載してくれるといいですよね。自分からサイト内を深堀していくのはちょっと面倒なので、パッと見て分かるように、動画などで分かりやすく表現してくれるといいなと思います。

─逢坂:洋服を購入する際に気になることはありますか。

渡辺: 気になるのはサイズ感ですね。どれだけデザインが素敵でも、着用した時のフィット感や着心地が分からないところが最大の悩みです。素材感についても、画面上でどこまで納得できるかというのが大きなハードルでした。

冨永: 私は素材のアップの写真が見たいですね。引いた写真だと微妙なテクスチャーなどが分かりにくいんです。どういう織り方をしているかとか、糸の感じもよくわかるからズームアップしてあるといい。

仙波: 素材感は大事ですよね。写真で見てプリントかと思ったら刺繍だったり、光沢があるように見えたけど実物は意外とマットだったり。私自身も、写真と実物の違いに驚いた経験があります。

─逢坂:アパレルECへの要望、期待するサービスなどはありますか。

仙波: 「お直しサービス」があるといいですね。ファッションはサイズ感が重要なので、たとえばウエスト部分だけを少し絞りたいとか、パンツの丈を数ミリ調整したいとか、そういう要望に応えてくれるようなサービスがあると嬉しいです。

渡辺: それはいいですね。購入した洋服をわざわざ専門店にリフォームに出すのも面倒なので、サービスの一環として備わっていると便利ですよね。

冨永: 私にとっては、返品可能かどうかがとても重要です。私はサイズ感がやや特殊なので(笑)、一概に「Mサイズ」「Lサイズ」といっても、丈はどうなのか、身幅はどのくらいなのか、実際に着てみるとブランドによっても結構違うんですよね。ですから、私にとっては返品に対応してくださるかどうかというのは、かなり重要になってきますね。

ブランドストーリーの発信などECサイトのさらなる進化に期待

─逢坂:ファッションメディアにも変化がありますか。

渡辺: デジタルシフトが進む中で紙の雑誌は部数も減り、今後どうしていくかというのは業界の課題です。現在は紙とウェブサイトを同時に運営するというのが大多数になっていて、どのように相互連携していくか、作り方や見せ方、販売手法など、いろいろな取り組みが進んでいると思います。またウェブサイトでの運営においては、読者の皆様がほしいと思う商品をECサイトですぐに購入できるというような選択肢も増えています。

─逢坂:紙とデジタルにおいて、コンテンツの違いなどはありますか。

渡辺: それぞれ異なる良さや特徴がありますよね。紙の場合は、美しいビジュアルを眺めるという時間そのものを自分でコントロールできますし、生活の中での潤いや豊かさのような気分も楽しんでいただけるのではないでしょうか。一方、デジタルの場合はやはりスピード感がありますから、トレンドや世の中の事象などの情報が瞬時に手に入りますし、SNSまで拡大して考えれば、コミュニケーションがポイントになりますよね。メディアとオーディエンス、またはオーディエンス同士のコミュニケーションもありますし、幅広く絆を築くことができるところがデジタルの素晴らしい点だと認識しています。

─逢坂:アマゾンジャパンでは、ダイバーシティ&インクルージョンなどの取り組みを進めています。女性として第一線で長く活躍する中で大切にしていることは何ですか。

渡辺: 女性はいろいろなフェーズで様々な問題があるので一言で語ることはできませんが、ファッション業界は他の分野と比べると、比較的多くの女性が活躍している産業だと思います。メディアもそうですし、フリーランスで活躍している女性も多く、各所でリーダーシップを発揮している女性がたくさんいらっしゃいます。ところが、日本社会全体でみると、女性のリーダーが少ないとか、賃金格差の問題なども取り沙汰されていますよね。ファッション業界に携わる私たちの経験や意識をもっと他の産業・分野の女性と共有して、お互いの意識を高めていくようなことができればいいと考えています。それに、女性の皆様には、何かのプロジェクトをリードしたり、組織の中で意思決定したりするポジションに立つことを恐れず、チャレンジしてほしいと思います。

冨永: 私も今年でデビュー25周年ですが、長く続けることは本当に大変だと思います。女性に限らず、年齢による体調や体力の変化もあります。それを認識しながら、どういう風に健康管理をしていくのか、トレーニングや食事面の管理など、今も試行錯誤しながら取り組んでいます。とにかく諦めずに、継続していくことが一番大切だと思いますね。

仙波: 女性が活躍できる業界にいるからこそ、もっと状況を改善できるよう、先陣を切っていかなければいけないとも思います。今は子育てしながら働く女性も増えている中で、よりよい環境をどうしたら作っていけるのか、少しずつでも前に進めることができればいいと思っています。


渡辺三津子(わたなべ・みつこ=写真左から二人目)

ファッションジャーナリスト。資生堂の企業文化誌「花椿」の編集部からキャリアをスタート。1996年に「フィガロ・ジャポン」、1997年に「エル・ジャポン」編集部での経験を経て、2001年にVOGUENIPPON(現VOGUEJAPAN)のファッションフィーチャーディレクターに就任。その後は同雑誌の副編集長や編集長代理を務め、2008年に編集長に就任する。編集長時代にはウェブ版の強化や、各種SNSアカウントの開設などデジタルコンテンツの推進を牽引した。毎日ファッション大賞などアワードの審査員や、誌面では「コムデギャルソン(COMMEdesGARÇONS)」の川久保玲をはじめ著名デザイナーへのインタビューを行うほか、Fashion’sNightOutなどのイベントもリードし、世界的なファッション誌の日本版編集長として幅広く活躍。2022年に独立し、ファッションジャーナリスト、エディターとして執筆やファッションコンテンツに関わる活動をスタートする。社会課題とクリエーションの両立を探索するインキュベーションプロジェクト「FashionFrontierProgram」の審査員を務める。※各プロフィールは「AmazonECサミット2022」公式サイトから転載

冨永愛(とみなが・あい=写真左から三人目)

モデル。17歳でNYコレクションにてデビューし、一躍話題となる。以後、世界の第一線でトップモデルとして活躍。モデルの他、テレビ、ラジオ、イベントのパーソナリティ、俳優など様々な分野にも精力的に挑戦。日本人として唯一無二のキャリアを持つスーパーモデルとして、チャリティ・社会貢献活動や日本の伝統文化を国内外に伝える活動など、その活躍の場をクリエイティブに広げている。公益財団法人ジョイセフアンバサダー、エシカルライフスタイルSDGsアンバサダー(消費者庁)、ITOCHUSDGsSTUDIOエバンジェリスト。

仙波レナ(せんば・れな=写真右)

スタイリスト。高校生の時に雑誌でナオミ・キャンベルら’90sを代表するスーパーモデルたちを見て衝撃を受け、スタイリストを志す。渡辺いく子氏に従事し、3年のアシスタントを経て独立。「VOGUEJAPAN」をはじめとするファッション誌のほか、広告やCMなどで幅広く活躍。エッジの効いたモードスタイルを得意とする。

司会/逢坂嘉世(おうさか・かよ=写真左)

アマゾンジャパン合同会社、セラーサービス事業本部ファッション事業部長。日本生まれ。イエール大学でMBAを取得後、アメリカのニールセンカンパニー本社に就職。北米アナリティクスビジネスを統括し、2019年に帰国。ニールセン・メディア・ジャパンの日本マーケットリーダ―を経て2021年にアマゾンジャパンに入社。



◇ 取材後メモ

私たちはファッションに本気です─。「AmazonECサミット2022」内の関連セミナーの冒頭で担当者が発した言葉からは、同社の並々ならぬ決意を窺うことができます。実際、アマゾンジャパンは、有料の「プライム会員」向けに展開するファッションアイテムの試着サービス「PrimeTryBeforeYouBuy」を、同社サイトに出品する外部事業者の販売商品にも適応するなど拡販に注力しています。デジタルシフトの先にある企業間競争は、ますます激しさを増しそうです。今回のトークセッションでは、「美への欲望」「魔法のような魅力」「ブランドストーリーが大切」など、3人のファッションに対する強いこだわりや愛情を随所に感じることができました。ECサイトの操作性や機能面の拡充はもちろんですが、こうした心理にこそ、コアなファンを獲得するための大切なヒントが潜んでいそうです。

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