楽天グループは2024年1月25日、仮想モール「楽天市場」出店者向けのイベント「楽天新春カンファレンス2024」を開催した。登壇した同社の三木谷浩史社長は、人工知能(AI)を活用したネット通販の未来や、店舗オペレーション支援などについて語った。
業務負担を大幅に改善
三木谷社長は講演の冒頭で「今日のテーマは何と言ってもAI。楽天は『AIエンパワーメントカンパニー』に進化をしていく」と決意表明した。この30年間、インターネットの登場にはじまり、クラウドやスマートフォンの出現と、EC周辺ではさまざまなイベントがあったが、「AIは販売手段だけではなく、会社のあり方や社会のあり方、人のマネジメント、マーケティングの考え方など、全てが変わる大きな革命。もしかしたらインターネット以上の大きな革命ではないか」(三木谷社長)。
では、AIは楽天市場にどのように関わってくるのか。三木谷社長は「生成AIは、人間のように考えられることが一番大きなポイント。新たなコンテンツを作ったり、商品説明を作ったり、さまざまな事ができる。『これって人間しか無理だよね』と思っていたことがAIでできるようになる」とした上で、「『オペレーション効率向上』
『店舗効率向上』『マーケティング効率向上』という3つの観点でAIを出店者の皆さんに使ってもらえるようにしたい」と述べた。
楽天ではこれまで、楽天市場という集客・ECの装置を通じて店舗とエンドユーザーをつなげてきた。これにAIを付け加えることでさらにパワーアップしていく。「2024年は楽天がAIエンパワーメントカンパニーへ進化する最初の年になる」。
三木谷社長によれば、同社には「楽天市場会員を中心とした膨大なデータ資産」「OpenAI社と連携したAIプラットフォーム」「業界知識を持った多様なグローバル人材」という強みがあるという。その上で、マーケティング効率とオペレーション効率を20%向上させるとともに、出店店舗やクライアントの業務効率も20%上げることを目標としていく。
では、楽天市場ではどのようにAIが使われていくのか。三木谷社長は「画像関係、商品説明関係、マーケティング戦略の構築、顧客対応などに関して、生成AIを使いながら、皆さんの業務負担を軽減するとともに、効率を上げていく」と宣言した。
具体的な事例としては、「楽天市場へのセマンティック検索導入」が挙げられる。セマンティック検索とは、ユーザーの意図を理解した上で、より関連性の高い結果を表示させるというものだ。例えば「オフィスで使えるバッグ」で検索した場合、セマンティック検索がない場合は、書類を運ぶ簡素なメールバッグなどが表示されるが、セマンティック検索ありなら、女性向けの通勤用バッグが上位に出てくる、などといったものだ。検索された語句の意味を、画像も含めて認識した上で、検索結果を出せるようにしたことで、商品転換率は2.7%向上したという。
また、画像と商品の基本データを入力することで、商品名や説明文を作成・提案できるツールや、商品の使用シーンにあわせて、商品画像の背景を自動的に合成するツールも提供する。画像に関しては、例えば北海道在住のユーザーと、九州在住のユーザーで商品背景画像を変えるといったことをAIが自動的に行う。
その他にも、RMS(店舗運営システム)のサポート機能、ユーザーからの問い合わせへの対応、データ分析サポート、広告クリエイティブ作成など、AIを活用した店舗オペレーション支援を進めていく。例えば広告作成については、景品表示法や薬機法に違反していないかどうかを判断したり、より効果的なバナーやキャッチコピーをAIが提案できるようにする。
さらには楽天のECコンサルタントにもAIを活用し、店舗のサポートを強化する。また、店舗のAIに対する理解を深めるために、AIの概要や、楽天に最適化されたAIチャット
「RMSAIアシスタントβ版」の活用方法が学べる講座「楽天AI大学」を開設する予定だ。
三木谷社長は「2030年の国内流通総額10兆円という目標を達成するには、AIを活用するしかない。AIというツールを使いまくって、皆さんの人間らしいサービスをいかに大きくしていくかが重要」とした上で、「(AIなどによるサポートで)今まで500人しか届けられなかった『手書きの心』が、5万人に届けられるようになる。でも、根本にある人間らしい部分を失ってはいけない。店舗の皆さんの思いや商品に対する考え方を、われわれが精一杯の力を使ってサポートしていく」と講演を結んだ。