芸能人の女性トラブルへの対応などをめぐり、フジテレビでのCM中止が広がっている。「売り場」を持たない通販にとって、媒体は重要な顧客接点。テレビだけでなく、ウェブやSNSなどメディアを通じたプロモーションが必要な通販企業は同様の問題が発生するリスクを意識する必要がある。広告中止の長期化は、事業に影響を及ぼす重大な事態になるだけに深刻だ。各社の判断は分かれるが、今回の問題は、企業が意識すべきリスクの変化も映し出して
上場企業は人権方針で判断
通販企業の対応は割れている。上場企業や通販大手の多くは、「グループの人権方針に照らし、継続すべきではない」など、自社で策定した指針に基づき中止する。ダイバーシティー、多様性などここ数年、人権問題が社会でクローズアップ、意識されてきている。自社で定める人権方針に従い、取引先にもこれを求めているケースもあり、これを広告中止の判断材料にするところもある。こうした企業の多くは、「業績悪化、イメージが悪化するからということではない。他社が継続してもやめるという判断だ」とする。フジテレビの株主である米投資ファンドが指摘したのも、人権問題に対する関心が国内より高く、海外では社会に根づくためだろう。グローバルに展開する大手スポンサーほど指摘を意識せざるを得ない。
レスポンスや顧客の意見を判断基準に
「レスポンスが著しく悪化しない限り継続する」。こうした判断は、中堅、中小の通販企業に多い。オーナー経営の企業もレスポンスを基準にした判断が少なくない。「通販はレスポンス。メディアは情報発信ツールであり、そもそもブランドイメージで広告していない」。こうした企業は、「顧客クレームが頻出すれば中止の可能性がある」、「問い合わせ件数で判断する」と、顧客との関係性を判断軸にする。現状は、クレームはないとする企業が多く、CM差し替えは、レスポンス次第とする企業が少なくない。BSフジで29分の長尺インフォマーシャルを展開するある企業の場合、尺が長く、公共広告への差し替えが行えないという物理的な問題もあるようだ。
「広告価格の下落も考えられ、これを逆手にとって積極的に出稿する企業も出てくるのではないか」。コロナ禍で広告露出が減る中、広告の大量出稿で一気に知名度を高めたファーマフーズのように、ブランディングを重視する大手スポンサーが早々に引いた〝売り場〟で認知を得る作戦も考えられるだろう。
「系列局に罪はない」各社の判断が一致
こうしたケースの危機管理は、横並びの前例踏襲主義が多い。業界1位が動けば2位以下も追随する。しかし、通販はメディアを情報発信、商品訴求の「ツール」としか見ていない企業も少なくない。「関係ないというドライな考え方もある」、「フジの不祥事もオリンピックと同じ。レスポンスの数字次第だ」。ブランドが左右するマスマーケットではなく、直接的に消費者と相対する通販の強みでもあろう。
共通するのは、フジ系列局への対応だ。「別会社で罪はない」、「フジテレと同様の人権方針への抵触はみられない」、「系列局、社外関係者など経済的に悪影響を受ける方も多い。再開することでステークホルダーの生活を守る姿勢も必要」といった理由で続けている。

広告収入は、233億円減の下方修正
フジテレビジョンは一連の問題を受け、社内に再生プロジェクトチームを設置している。メンバーは、中堅・若手社員を中心に編成。第三者委員会の調査結果を待たず再発防止等に向けた具体的施策を策定し、信頼回復を急ぐ。フジ・メディア・ホールディングスは今年1月、25年3月期の通期業績予想を下方修正した。中居正広氏の女性トラブルに関する従業員関与の疑いが生じ、スポンサー離れが相次いだ。広告中止により、フジテレビジョンの広告収入は、前回予想から233億円減の1252億円に修正した。前年の広告収入は、前年比8%減の1473億円であり、大幅な減収になる。
広告収入の連結売上高に占める割合は、3割に満たないが、CMを中止したスポンサーは、80社近くに達している。ACジャパン(公共広告)への差し替えの割合は、「回答を控える」(同社)としているが、報道によると8割程度あるとされる。フジテレビジョンでは、広告主との信頼関係維持、早期の再開を目指し、広告中止、今後の出稿キャンセルのいずれも広告料金は請求しない。
政府の広報を中止、影響長期化も
こうした中、政府は今年1月、フジテレビジョンへの広告出稿を、当面見合わせることを、各府省向けの事務連絡で通知している。再開は、「第三者委員会の調査報告結果を踏まえ判断する」(内閣官房内閣広報室)とする。人権侵害に対する社会の抵抗感が強まる中、政府判断は企業各社の出稿判断にも影響しそうだ。
フジテレビジョンは、政府対応に「皆様に大変ご迷惑をおかけしている。ガバナンスを立て直し、信頼回復に努める」としている。フジテレビジョンが作成する番組とのタイアップや企画・制作への協力については、その目的や効果を勘案し、各府省は、内閣官房に相談の上で対応するとしている。報道番組への出演や、報道のための取材対応は、政府の説明責任を果たす観点から通常通り対応する。
政府は、内閣府の政府広報が2件、厚労省、国税庁が各1件の計4件の広報活動を行っていた(1月29日時点)。政府広報は、TVer(ティーバー)で配信する動画広告と、年度内に予定していた民放各局におけるテレビCM。フジテレビ関連は実施中を含め、いずれも取りやめる。
フジテレビジョンとの番組制作への協力は、消防庁の1件で、すでに見直した。ほかに内閣府の1件、海上保安庁の2件については、対応を検討している(同)。
政府判断は、企業各社の広告再開にも影響を与える可能性が高い。フジテレビジョンは、第三者委の提言を受けて早急に再発防止策を策定。今年4月以降、早期にCM再開を目指していたとみられるが、捜査権などがない第三者委による調査は、任意で聞き取りへの協力を求める必要もでてくる。「影響は1年近く続くのではないだろうか」とみる業界関係者もいる。
タレント採用のリスク高まる
今回の事態で再認識が必要になったのは、イメージキャラクターのCM等への起用に関するリスクだ。問題長期化により、通販各社からは、「テレビ局、メディア、タレントの信頼性の低下が、商品にリンクする懸念が生じている」、「放送局全般の信頼度の低下が怖い。広告がウェブの一極集中となれば、ゲリラ戦で戦いにくい市場になる。テレビはシニアとは効果的に接点を築ける手段。視聴者離れは本意ではない」といった意見が聞かれた。
日本を代表企業するトヨタ自動車。キャラクターに起用する歌舞伎役者の不祥事に見舞われた。これを受け、オウンドメディア「トヨタイムズ」の設計、戦略変更を行い、自社と従業員による運用に切り替えた。
直近ではアサヒビールのタレントで飲酒トラブルが起こり、契約破棄となった。キャラクター起用にもリスクは付きまとう。
ジャパネットたかたは自社でBS局を開局したが、これも今回の問題に象徴される時代の変化を見越したリスクヘッジの一つであろう。メディアに対する信頼が低下する中、不祥事のリスクや外部環境に左右されないメディアを自ら持つという選択肢だ。ただ、メディアのオウンド化は、企業の高い知名度と認知に向けたプロモーションなど資本力も必要になる。ファンケルやDHC、オルビスのようにマルチチャネルで、通販だけに依存しない事業モデルの構築も有効であろう。
今回の問題を受けた通販各社の業績への影響は、現状「軽微」との回答が大勢だが、「第三者委員会の調査報告を踏まえ判断」、「人権方針に抵触していないと判断できるまで差し止める」、「フジテレビ経営層の対応次第」などの各社慎重に判断する。想定外のリスクに直面した際、判断は事業規模、事業モデルなど複合的な要素で変化する。「レスポンス」という数字も一つの要素だ。今後、通販各社が判断基準をどこに定め、リスクに備えた事業モデルを構築するか。今回のフジテレビ問題は試金石となるだろう。