チャットbotの導入が進むか? ――SNSやコールセンター絡めたサービス続々

「LINE」を通じてAIが顧客の要望を受けて商品をお薦めする機能の開発が進んでいる

オンライン上でリアルタイムにテキストのやり取りを行うチャットがここに来て注目を集めている。「bot(ボット)」と呼ばれる自動送信の仕組みを組み合わせることで、人手を介さずにチャットでユーザーとコミュニケーションを行うことができるというのだ。これを可能にしている背景には人工知能(AI)などの技術の進歩が大きい。

無料通信アプリ「LINE」やフェイスブックのメッセージ配信サービス「メッセンジャー」アプリを使って、企業が顧客とのコミュニケーションをbotが担う。あるいはSNS以外でも企業のウェブサイトへの問い合わせをチャットbotに切り替えることでコールセンターへの問い合わせを減らすという取り組みも始まっている。

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「LINE」で売れ筋をお薦め

レコメンデーションエンジンの開発・運営などを手がけるサイジニアは、ソフトバンクが日本IBMと共同で展開している「IBM Watson(ワトソン)エコシステムプログラム」に参加し、IBMの人工知能「ワトソン」を使った「LINE」用のアプリケーション開発に取り組んでいる。 その一環で、LINEの1to1メッセージ配信サービス「LINEビジネスコネクト」を活用。「LINE」の「トーク」と呼ばれるチャット機能を活用してAIがユーザーと接客を行い、商品提案を行う実証実験を行っている。

例えばユーザーが「今シーズンのおすすめ教えて」と質問すると、AIが性別を尋ねる。それに対して「女です」と答えると、「去年から女性にはガウチョパンツが人気です」と売れ筋商品をお薦めする。チャット画面の下には商品画像が掲載されており、ユーザーが画面をタップするとその商品を販売している通販サイトに遷移して、そのまま購入できるという仕組みだ。

サイジニアの吉井伸一郎社長は「ユーザーがほしいモノを先読みして、見つけやすくするのが当社のミッション。普段使っているコミュニケーションツールでチャットしながら買い物ができるようにしたい」と述べる。

課題はユーザーとAIとの間の会話をどこまで作っていくか。ユーザーの回答を踏まえた上でAIが質問をしたり、ユーザーの希望に合った商品を的確に紐付けることなどが求められている。今は実用化へ向けた実験の段階だが、今後LINEを通じてAIが我々の欲しいモノを判断して提案してくれるようになるのはそれほど先の話ではないかもしれない。

アスクルは9月9日から自動配信によるチャットサービスを導入。コールセンターで精度を高めていく

「メッセンジャー」で顧客対応

ネット販売支援などを展開するメンバーズは8月30日、AI技術の開発・運用など手がけるAutomagi(オートマギ)との業務提携を発表した。提携の中身は「フェイスブックメッセンジャー」とBot機能を活用したマーケティング支援を共同で実施していくというもの。

メンバーズでは消費者が問い合わせや予約、注文などを行う際の手段として「フェイスブックメッセンジャー」に着目している。現状、SNSを使って企業が顧客から問い合わせを受けたり商品を訴求する手段としては国内で多くのユーザーを持つ「LINE」が注目されている。それに対して「メッセンジャー」の利用は「まだまだこれから」(メンバーズ上級執行役員の浅見浄治氏)という段階だ。

ただ、コミュニケーション手段としてフェイスブックが使われる割合が多い海外では、航空会社が航空券を予約した顧客に対して搭乗までのサポートを「メッセンジャー」アプリを通じて行うなど利用が広がっているという。また、日本でもEC事業者などが活用するケースも出てきているようだ。

そうした中でメンバーズでも「フェイスブックメッセンジャーbot」は画期的なサービスになる」(浅見氏)と期待を寄せる。メンバーズによると、オートマギのAIソリューション「AMY(エイミー)」を活用して「メッセンジャー」内での問い合わせや商品購入時の対応などをbotで行うことができるという。AIによる返答の精度などは回数を重ねるごとに向上していくとのこと。導入に際しては、運用時にAIが対応できない場合には人間が「メッセンジャー」で応対するといったように、企業側の運用方法やニーズに合わせたルールづくりも必要になる。

料金は初期費用が1500万円程度。メンバーズでは大手企業を中心に利用を呼び掛けていくようだ。

アスクルが自動化に対応

これまでの2つの事例は、「SNS」を「AI」を掛け合わせたサービスモデルだったが、最後に紹介するのは、「SNS」も「AI」も使わず、チャットで自動対応するというものだ。

チャットを行う場所はSNSではなく、企業のウェブサイト。そして厳密にいうとAIではないが、最新のテクノロジーを使った取り組みだ。

それは「バーチャルコミュニケーター」という機能で、アスクルが9月9日に同社の法人向け一括電子購買サービス「ソロエルアリーナサイト」内に導入している。

バーチャルコミュニケーターはコールセンター大手のベルシステム24とイナゴ社が共同で開発したもので、チャットの自動応答によってウェブサイトでの自己解決率を高めることで、コールセンターに寄せられる電話での問い合わせの減少が期待できるようだ。

例えばユーザーが「配送について知りたい」と質問すると「配送について、何をお調べいたしましょうか?」と自然な会話を通じて回答を絞り込み、最終的に質問者の意図に応じた適切な回答を提示する。これによりユーザー自らがウェブサイトで問題を解決しやすくする。

バーチャルコミュニケーターは、イナゴ社が開発した文章や文脈を把握する独自のアルゴリズムを実装しており、文字表現に対して精度の高い回答を提示できるとしている。運用面ではベルシステム24が質問と回答のミスマッチに対してコールセンター内で改善を行うことで精度を磨いていく。ベルシステム24によると、システム自らが機会学習をするのではなく人の手によって精度を高めるという意味で「AI」とは呼べないそうだ。バーチャルコミュニケーターの利用料は月額100万円からとなっている。

サービスが続々と登場しているチャットbotだが、今後も技術の進歩とともに新たなサービスが登場する可能性は高い。EC事業者も最新の動向をチェックしておいてもいいかもしれない。

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