ヤマト運輸が大口取引先1000社と交渉 ―― 運賃引き上げと荷受量の抑制へ向け

4月28日の会見でデリバリー事業の構造改革を説明する長尾裕ヤマト運輸社長㊨と山内雅喜ヤマトホール ディングス社長

ヤマト運輸が宅急便の大口顧客に対する割引率の引き上げや荷受け量の抑制を進めていくほか、一般向け基本運賃を平均約15%値上げすることを発表した。割引率引き上げと荷受量抑制を要請する大口顧客は採算性を検証した上でリストアップした約1000 社。これら取引先と重点的に交渉を進めていき、荷受け総量の抑制では2017 年度に前年度(約18 億6756 万個)比8000万個の減少を目指す方針。市場拡大が続くネット販売だが、今回の値上げと荷受量の抑制はネット販売事業者の配送サービスや物流コストにも大きく影響しそうだ。
今回発表した「2017 年度『デリバリー事業の構造改革』」は、「社員の労働環境の改善と整備」「宅急便の総量コントロール」「宅急便ネットワーク全体の最適化」「ラストワンマイルネットワークの強化による効率向上」「宅急便の基本運賃と各サービス規格の改定」を主な内容とした。
社員の労働環境の改善と整備は、4月24日に受取先からのセールスドライバーへの直通電話を昼の休憩時間と午後7時以降にはサービスセンターに転送するように変更。さらに8月16日からは昼の休憩時間中のセールスドライバーの携帯端末の利用を全国で停止する考え。
同時に労働環境の改善に関わる宅急便のサービスレベルも変更し、4月24日から当日再配達の受付時間を午後8時から午後7時へと1時間繰り上げた。さらに6月19日からは配達時間の指定枠を見直し、長時間労働の一因となっているとする「午後8─9時」を「午後7─9時」の2時間枠に変更するほか、セールスドライバーが昼休憩をきちんと取れるよう「正午─午後2時」の枠を廃止する。

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アマゾンとも交渉中

大口顧客を対象にした総量コントロールに関しては、割引率の改定などともに既に交渉に着手している。アマゾンジャパンなどとも交渉中で、約1000社との交渉を上半期中には完了するという。この1000社については、主に各地の主管支店に併設している法人営業支店が管轄し、その中でもボリュームが大きく、さらに採算性について検証した中でリストアップしているという。交渉内容については個々の取引条件や荷受量のボリュームと料金設定が異なりコストも個別に違ってくるとし、取引先との内容を分析しながら行っていく。また割引率や荷受け量の抑制に加え、繁忙期の出荷調整や同一届け先への複数荷物のまとめ配送の仕組みの構築、個人会員制度「クロネコメンバーズ」とのデータ連携により届け先への事前通知などによる集配効率の向上、再配達削減への協力も要請する。
さらに大口顧客の価格設定を合理的かつ適正に設定できるように「法人顧客プライシングシステム」の導入も検討している。取引先の契約運賃の決定プロセスを精緻化・均一化し、荷受け量だけでなく、届け先エリア、サイズ、集荷方法はじめ、燃料費・時給単価の変動などの外部環境変化に伴うコスト変動も組み込んだ輸配送のオペレーションコストを総合的に反映するシステムを構築する考え。今年度上半期中には作り上げたいとしており、最初から完全なものとしてでなくても下半期から使えるようにしていく意向で、全国の法人営業支店での運賃設定に活用していく。

来年3月までに3000 台に拡充する宅配ロッカー

宅配ロッカーも前倒しで拡充

宅急便ネットワーク全体の最適化は、大型ターミナル「関西ゲートウェイ」が今年10月稼働予定で、既に稼働している関東と中部のゲートウェイとの多頻度幹線輸送により実現を図り長距離ドライバーの労働環境の改善とコスト削減につなげる。関西が新たに加わることで中部を介した関東・関西間の中距離輸送網を構築し、24 時間運行や大型車両の導入も予定している。さらに最新設備による省人化や人を介さない搬送などを大型集配センターに限らず可能にしていくという。
ラストワンマイルネットワーク強化では、宅配ロッカーの設置拡充を前倒しで進めていく。18年3月までに1都3県を中心に累計3000台に拡充する考え。この設置台数は22年度をめどにしている5000台との目標数の半数を超えるもので、宅配ロッカーの利用が早期に大きく広がることになると見られる。同時に6月からはネット配売での注文時に受取先として宅配ロッカーを直接指定できるようにするほか、下半期からは宅配ロッカーに宅急便の発送機能も持たせる計画。
通常の配送においてもITを活用した集配作業の高度化へのとりくみとして、配送指定時間データなどを基にリアルタイムでのコースナビゲーションを行う「自動ルート組み機能」を活用していく。
さらに受取人の利便性向上を図ることでのラストワンマイルネットワークの効率向上策にも取り組む。クロネコメンバーズへの会員登録を簡単に行えるようにし、ネット販売サイトでの初回購入時からすぐに届け日時の変更ができるサービスの提供なども検討している。

なお、再配達の問題に関連して、再配達した場合に再配達料を徴取することについては運用が難しいとし、実施する考えはないという。

基本運賃は140~180 円値上げ

基本運賃の値上げは9月中に、60サイズと80サイズを現行運賃に一律140円加算した料金に変更。同じく100・120サイズが160円を、140・160サイズが180円を加算した料金に改定する。今回の値上げ幅は同社を取り巻いている環境、今後の労働需給の逼迫状況の進展などを考慮し、安定的なサービスの提供の継続のために設定したという。なお付加サービスの料金はクール便やタイムサービスなどの値上げや改定はない。
値上げを実施する一方で、割引制度を拡充する。営業所での自動送り状を発行するネコピット送り状の利用で50円のデジタル割引を始めるほか、100円の割引となる営業所などのへ持ち込み割引ではクロネコメンバーズの場合に50 円追加の150 円に割引幅をアップする。新料金で60サイズを関東から関西へ配送した場合の基本運賃は1015 円だが、最大で300円の割引となり、旧運賃と比べても差がないという。このほか届け先を自宅でなく、営業所といった直営店(宅急便センター)への直送をした場合、荷物1個につき50円低額化するサービスも開始する。新たな割引制度が加わることで額面では15%の値上率だが、実質は10%程度の値上げになるという。

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