【2011年5月号】
説明不足が不安あおる結果に
楽天が震災後から実施しているメルマガの配信制限に、同社の仮想モール出店企業から不安や不満の声が強まっている。
「楽天市場」は出店企業が多いこともあって個々の店舗への説明が十分ではなく、FAXが送られてくるだけで店舗側から問い合わせないと状況がつかめないなど、多くの場合は楽天の説明不足が不安をあおる結果となっているようだ。
メルマガ配信制限の経緯を見てみると、震災の後、楽天は電波利用を控えるなどの理由で出店企業が顧客に送るメルマガ配信を全面的に停止した。
3月17日に有料の「エクスプレスメール」の配信を再開。これについては、有料メールを利用していない店舗も「緊急事態だったし、とくに違和感はなかった」(健食)とするが、不満の原因はその後の対応に集中している。
3月23日には無料のメールも再開されたが、“購入履歴のある顧客に限る”などの制約があり、4月11日現在、新客獲得を目的としたメルマガは配信できない状況が続いている。
3月中はメルマガ自体を自粛する企業が多く、「テレビでACジャパンのコマーシャルが出ているうちはプロモーションはかけられない」(衣料品)との言葉に代表されるように、各店舗はメルマガ再開の成り行きを見守っていたようだが、1カ月経っても全面解禁の見通しがはっきりとしないため、売り上げが計画通りに立たないことへの危機感と苛立ちを強めているようだ。
多くの店舗では、楽天からは「プロバイダーからメール制限の要請がきていて無駄なトラフィックを避けたい」という説明を受けているようで、「それならば、各店舗が送れるメルマガの回数自体を制限するなどの対応もあるはず」(服飾雑貨)という声も出始めている。
メールの完全有料化を危惧
そもそも、無料で配信できるメルマガについては、近年、出店企業の増加に加えてメルマガ配信を希望する店舗が増えていることもあり、配信したい店舗は3日以上前にメルマガの予約を入れる仕組みをとっている。しかも、メルマガのタイトルと内容を事前に登録しておく必要があり、原稿の差し替えは原則としてできない。
一方の「エクスプレスメール」は数日前の配信予約が不要などの特権があり、利用料は月額10万円に加えて1通当たり0.3円という従量課金制を採用している。仮に10万人の会員に週3回メルマガを送るとなると、課金分だけでも1回のメルマガに3万円かかり、年間では108万円になる。これに、固定費として120万円が上乗せされ、トータルで228万円となる。
大手では顧客数が多く、「従量制の有料メールではコストがかかりすぎる」(健食)とする声や、新規客へのメルマガが多い店舗では「有料メールに入ったら楽天に支払う手数料は全体で4~5倍に跳ね上がる」(衣料品)として敬遠する企業も多いが、楽天では利用店舗数などは公表していない。
店舗によって新客をターゲットとしたメルマガの比率は異なるため、従来の配信数に比べて「10%程度しか送れていない」(服飾雑貨)店舗や「30~40%水準に落ち込んでいる」(高級時計)とするなどバラつきはあるものの、配信制限の長期化はすでに各店の売り上げに影を落としてきているという。
そんな中、次々と配信される楽天本体の広告メルマガに店舗側は不公平感を募らせているようだ。楽天では「当社も配信件数や送り先自体を絞り込んでいる」とするが、配信制限の期間なども含めて店舗への説明不足は否めないし、購入経験が少ない楽天会員にもメルマガが届いているケースもあるようだ。
さらに、店舗の神経を逆なでしているのが、このタイミングで有料メールを推奨する楽天市場の営業部隊だ。震災を機に、特別扱いされている有料メルマガの普及を加速させようという動きと捉えられても不思議ではない。
楽天ではこれまでも料金改定、サービス改定を繰り返しており、メルマガについても有力店舗がモールから抜けなければ、「中小がいくら騒いでも実力行使に踏み切るのでは」(服飾雑貨)という不安が根底にあるようだ。
“有料”に切り替える店舗も
楽天では4~6月の間は有料メルマガの月額使用料を無料とするキャンペーンを展開している部隊もおり、店舗からは「6月末までメルマガの全面解禁はないのでは」(服飾雑貨)との見方や「完全有料制に移行するのでは」(衣料品)などの声が飛び交っている。
通販企業にとって、新客の存在はリピーターの獲得と並んで重要だ。「当社が楽天のランキングに載るときは購入者の70%が新規客」(衣料品)という企業もあり、新客を呼び込むプロモーションとしてメルマガを重要視する企業も少なくない。
実際に「新規開拓ができなければ売り上げに大きく影響する」(食品)として、4月から有料メルマガに切り替えた店舗も出てきている。
楽天のメール対応については、昨年5月から導入され始めた「楽天あんしんメルアド」サービスの存在も出店企業に影を落としている。
これは、顧客のメールアドレスを楽天ドメインのメールアドレスに変換して表示や送受信を行なうサービスで、楽天ではセキュリティー強化のためと説明しており、昨年までに同サービスへの移行を済ましているようだ。
これによって楽天で買い物をした顧客のメールアドレスは店舗側では確認できなくなった。出店企業にとっては“顧客情報を持っていない”という不安感の上に、今回のメルマガ配信制限が加わった格好だ。
楽天はこれまで、低価格商品をウェブ広告などを使って宣伝させることで消費を喚起し、モール全体の流通総額を押し上げる戦略をとってきた。しかし、このやり方で出店企業は疲弊し、有力店舗と言われてきた企業も数年で体力が持たなくなって売り上げを極端に落としたり、会社自体をたたむケースが目立ってきている。
楽天としても、“日替わりのヒーロー” を出し続ける限界もあり、大手メーカーや有名ブランドの出店を加速させ、各種手数料で安定的な収益を確保したい思惑も見え隠れしており、その新たな標的が“メルマガ”ということなのかもしれない。
これまでも、楽天店舗は、売り上げに応じた手数料に加え、ポイント費用やカード手数料などを支払っており、ここにメルマガの有料化が加われば利益がさらに圧縮され死活問題となるだけに、楽天はキャンペーンを展開する前に、店舗側の不安や不満の声に耳を傾ける必要がありそうだ。
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