直井聖太●ビーノス代表取締役執行役員社長兼グループCEO

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越境ECへの挑戦を決断するタイミングが来た

 近年は停滞が続く国内市場に代わる新たなビジネス機会として、ECを使って海外進出を目指しているという通販企業も少なくない。しかしながら、欧州や中東での政情不安をはじめ、中国で始まった日本商品の輸入規制など、2023年は越境ECを取り巻く環境が大きく変化を見せている。先行きを見通すことが難しい中、果たして、海外に挑む日本企業にとって、今はどのような風が吹いているのか。越境EC支援サービスを手がけているビーノスの直井聖太社長兼グループCEOが捉える、近年の海外市場の動向や今後の展望とは。

輸入を巡る各国の規制に大きな変化も

中国企業が巻き起こしたゲームチェンジ

─直近の越境EC市場をどう見ていますか。

 コロナによるEC市場の特需が一段落したとはいえ、順調に数字としては伸びていると思います。最近のトレンドや大きな流れについては、まず、グローバルで見ると、(ファストファッションの)「Shein(シーイン)さんだったり、(ECアプリの)「Temu(ティームー)」さんなど、越境ECにおいて中国勢が世界を席巻していることは周知の通りです。これは我々のような日本からの越境ECビジネスにも少なからず影響があるでしょう。

 日本企業からすると、より差別化を図らなくてはいけない段階にあり、きちんとブランディングされてない商品をECで販売したとしてもこれからは厳しい状況になるのではないでしょうか。

 もちろんこれはシーインさんやティームーさんが出てくる前からの話です。そもそもアマゾンさんで売ってる商品はノーブランドであっても買われているものがあります。特に日用品については、どんどんそういった中国発の企業がたくさん出ていました。価格が安くて品質もそれなりに良いという商品が選ばれているのだと思います。シーインさんやとティームーさんの出現は、そうした流れを加速させる大きなきっかけになっています。

─最近の越境EC市場において変化を特に感じる部分は。

 各国の規制が変わってきたというのが日本にとっても重要なポイントだと思っています。例えば2023年の1月からシンガポールにおいては400シンガポールドルを下回る商品に関してもGST(現地への輸出に関する税)がかかる形になりました。今まであれば、通関業務も含めた処理の煩雑さを考えた場合、このような低価格帯の商品に関しては税がかからなかったというのがどの国でも一般的でした。いわゆる免税の上限額みたいなものが決められていましたので、この金額以下の商品であれば税がかからないという形で簡素化されていました。

─なぜ、そのような新たな規制ができるようになったのでしょうか。

 ここは我々の認識としては、おそらく、越境ECでグローバルに商品を販売するプレーヤーがどんどん増えてきたことによって、各国が(自国の産業保護のために)規制を変えていった印象を受けます。この動きはシンガポールだけでなくインドネシアでもあります。オーストラリアやニュージーランドなどではそれ以前からこの越境ECが伸びている状況下で、免税の上限額が低い商品であっても事業者がきちんと(購入者から税を)徴収して各国に納付しないといけないように変わっていました。そうした流れにアジアの国が続いているのではないでしょうか。EUにおいても、インボイスの項目に関してはより細かく明記しなくてはいけない状況が2023年から始まっています。

 これはおそらく、越境ECそのものが中国勢のプレイヤーによってゲームチェンジされてきたからだと認識しています。国内の産業維持を見据えて、これまでのように手放しで海外の安い商品だけを買えば良いというわけにはいかなくなったことに各国が気付いて対策を取っているのではないでしょうか。

─規制以外で変化を感じている問題はありますか。

 もう一つ、こうした背景の中でやはり物流が我々としては肝になってくると思いますし、非常に難しい問題となっています。これは、コロナ禍においても浮き彫りになった問題で、国際線の便数が減少して、そもそもの空き枠が減ってきました。日本郵便のEMSに関しては地域によっては止まってしまったこともあります。同様に、国際宅配便業者についても物量に制限をかけたり、燃油サーチャージなどを受けて輸送価格が高騰したりしていました。このような中で、いかにして物流手段を確保して海外に送っていくかが問われる形になっています。

─越境ECを行う上で、これまでとは違うところで注意が必要になってきたということでしょうか。

 やはり、今までの越境ECビジネスはそこまで特別に難しいものではありませんでした。あまりノウハウなどが無くても、どこかの大手モールに出店して任せておけば完結できた面もあり、そこまでグローバルにビジネスを考える必要もなかったでしょう。しかし、今はある種、商社のように世界中の情報を見て、先行きを読む力も必要になってきています。これまでとは違うビジネスゾーンに入ってきた感覚はあります。物流をどのように抑えていくのか、また、情勢に合わせて激しく動く各国のレギュレーションにも対応することは非常に大きな課題だと思っています。

─物流については国内外を問わずEC業界で注目のテーマとなっています。

 前述のシーインさんやティームーさんは、中国で製造したものを各国に運んでいるわけですが、そうした巨大な企業が動く中で日本企業が国際便の貨物の空枠を押さえるのは非常に難しいことです。越境ECとして日本でどうやったらブランディングができるのかということとはまた別に、そもそものインフラの確保だったり、レギュレーション対応など、真剣にやらなければいけないフェーズが来ているということだと思います。

 特に物流に関しては、当社でも独自に取り組んでいて、2023年9月から香港向けに関して、新配送サービスを開始しました。台湾でも行っていたもので、受け取り場所について現地企業と組んでセルフ受取店舗やロッカー、カウンターなど自宅以外で受け取る機会を提供するものです。こうした国際配送をスムーズに行う仕組みを作っていくことが重要になっています。

コンテンツ商品が堅調に推移

─物流事情や各国の規制内容などが変化する中、日本企業が取り組むべきこととは。

 今までは日本の人気ブランドを、海外の消費者が自分たちで知って買ってもらうことができていました。これからは日本企業から発信することが大事となり、インバウンドも絡めてブランドを認知してもらう取り組みが鍵になると思います。

目立つマーケと営業の分断

─今、海外で支持されている日本商品とは。

 よく売れているという点ではやはりホビー関連商材となるでしょう。それ以外では、2022年に当社が米国でキャラクターコスメを展開したところ、評判が良くてこの市場は成長するということを再認識できました。例えば、日本で人気のあったゲームキャラクターをブランディングに起用したコスメなどは意外と米国でも支持を得ることができました。現地のリアルの小売店からもっと販売してほしいという話も出たくらいです。

 また、こういったキャラクター商品は日本でのインバウンド人気もあります。キャラクターのリップクリームなどを日本のリアルで土産物として購入している外国人観光客も少なくありません。越境EC、現地のリアル店舗、日本でのインバウンド需要などを組み合わせながら顧客と接点を持っていくことを行っています。

メーカーやブランドがもっと予算を投下できるメディアへ

─キャラクターコンテンツ以外で期待できる商品とは。

 一例として、当社でも支援をしている、靴下のタビオさんとの取り組みがあります。こちらはデザインや素材にこだわった単価の高い商品も取り扱っていて、海外でのプロモーションを支援した際にはその月の注文件数が3倍になったこともありました。きちんとした商品を作っていけば、まだまだマーケティングをしていく余地は十分あるというのが我々の感覚です。

 また、以前に聞いたスタートアップ企業の話ですが、北陸で昔ながらの日本食器を製造している職人の企業では、職人が作るストーリーをきちんと外国人目線で記事として落とし込んで販売したところ、一つのブランドとしての価値が伝わり、米国向けに成長しているところもありました。工芸品なので、決して単価も安いものではないのですが、一生懸命時間をかけて作っていることが伝わっているのだと思います。

─一方、売り上げで伸び悩んでいる企業の例としては。

 やはりプロモーションなり、マーケティング活動なりを何かしら行わないと、自社商品が今持っている認知の範囲の中での売り上げにしかならないということはあります。もちろん運良く何かのきっかけで注目されて、急激に売り上げが伸びるケースもあるので可能性がないわけではありませんが。とにかく、ここ数年で感じているのは、日本企業による海外でのプロモーションが圧倒的に少ないということです。トライアンドエラーが少ないということでしょう。この何年間かは日本企業も保守的になっていたり、自信を失っていることもあるのかもしれません。

─2023年秋については1ドル150円前後の為替となっていますがその影響については。

 越境ECにとって、追い風になっている部分は多少あると思います。1人当たりで購入する金額というのは日本円にすると増えているかもしれません。

─原発の処理水を巡り、中国政府が日本の海産物などの輸入規制を強化しました。

 当社でも2次流通でお酒などを扱っており、中国向けにも販売していましたが、それがストップしました。海産物だけではなくて食品全般が販売できなくなったので、市場が大きいことは事実ですが、リスクが大きいのも事実です。当社も一時期は流通額で中国が20%に近いくらいの構成比となっていましたが、年々減らしてきているということもあり、今では5%を切っているような状況です。どちらかと言えば、今はもう影響を受けた後の段階にいます。

─越境ECで中国との取り引きが縮小することについては。

 一つ言うと、日本の商品が中国にとってそこまでの魅力が無くなってきている面はあります。10年くらい前は中国商品よりも日本商品の品質が高く見られて評価されていましたが、今は中国の人たちも自国の商品が一番好きになっている状態です。中国の電気自動車などが世界で伸びている例も大きいでしょう。自国のメーカーに対する消費者の信頼が増したという側面はありますし、実際に品質は向上しています。

 その上で、今回のような政治リスクもあるため、日本企業がわざわざ中国に入っていく余地は難しい面もあります。もちろん、我々はまだ中国向けに活動は行っていて、別に閉鎖しているわけではないのですが、以前のようにそこだけに過度にフォーカスするようなことはしておりません。すでに我々の販売国のうち、米国が約30%を占めています。

─今後の越境EC市場の可能性については。

 

 間違いなく伸びていくと思います。当然、マクロの目線で見た時に、今後の世界経済の10年後を断言することは(紛争や政情不安など)不確定要素もあって難しいです。

 ただし、そうした不確定要素を抜きにして考えると、日本が差別化した商品であったり、ブランド化した商品を売っていく市場は間違いなく広がっています。そこをチャンスと見て飛びこむのか、日本の国内で止まっているのかということは、今、皆さんに決断してもらうタイミングが来ているのかもしれません。やはり、どうしても国内はなかなか伸びにくい状況となっているわけですので。

 日本はASEANの各国や欧米との関係性が悪いわけではないので、市場はそれぞれあります。そうした国々は経済も上り調子にあるため、そこに対して果敢に攻めて行くかどうかを考えるかということだと思います

─メーカーやブランドは楽天市場が30~40代女性に強い点を評価しているのですか。

 比率でいえば30~40代女性がボリュームゾーンの一つで、そういった層を取り込みたいという要望は多いですね。ただ、絶対数でいえばそれ以外の層、もちろん若年層もたくさんユーザーとして抱えているので、さまざまな要望に応えられます。


直井聖太(なおい・しょうた)氏

1980年12月25日生まれ、2008年に入社し、転送コムの立ち上げに参画、09年に転送コム執行役員就任、12年に代表取締役社長就任、14年にBEENOS代表取締役社長兼グループCEO就任、20年に代表取締役執行役員社長兼グループCEOに就任



◇ 取材後メモ

今中間期の決算において、大手総合商社が円安などを背景に業績の大幅な上方修正を相次いで行ったのは記憶に新しいところ。通販との業態は違えど、こうしたニュースを聞くと海外展開がもたらす恩恵の大きさには改めて目を見張るものがあります。もちろん、実際に進出するに当たってはそれ相応の手間も工夫も必要となります。加えて、今回の話にもあったように物流問題や各国の輸入規制など配慮すべきポイントもいくつかあるでしょう。国内と海外のどちらでチャレンジをすべきかは正解があるものではありません。しかし、国内市場の長引く閉塞感を目の当たりにすると、海外展開を一つの選択肢に入れていく企業も今後増えていくのではないでしょうか。

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