数多存在するECサイトだが、着実に売り上げや顧客数を伸ばし成長を続けているサイトは多くない。ではそうしたサイトはどのような試みを行い、持続的な成長を続けているのか。様々なジャンルから注目されるサイトの成長戦略を見ていく。
「オリジナル商品含めた品揃え」と「配送サービスの充実」で差をつける
【事例① 山善】
山善が運営する「くらしのeショップ」は、「楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー(SOY)2018」において総合3位に入賞した。SOY2017では総合4位、SOY2015では総合10位となっており、押しも押されもせぬ上位店舗といえる。
扱っているのは家電や家具、日用雑貨といった家庭用品だ。担当する家庭機器事業部eビジネス部営業2課長の森貴紀氏は「ジャンルを幅広く展開しているのが最大の差別化ポイント」と話す。卸が本業の同社だが、メーカー品を扱うのと同時に、同社オリジナル商品の取り扱いも多いのが特徴となっている。この2本柱により多彩な品揃えを実現しているわけだ。
また、もう一つの特徴は配送面。自社倉庫を活用し、翌日配送(楽天市場の「あす楽」対応)の商品を増やしているほか、約束した日付に間違いなく届ける仕組みを構築することで、顧客のリピート購入につなげている。
同社がネット販売をスタートしたのは2004 年ごろ。家電量販店にも多数商品を卸している同社だが「卸先の法人からは、当社ネット販売の価格について指摘を受けることはあった」(森課長)。ただ、近年は楽天市場に出店している量販店も多く、価格面でもネットと店舗の価格を同じにして販売する量販店が増えたこともあり、以前ほどこうした指摘を受けることはなくなってきたという。また、山善ブランドの商品に関しては、ジャンルによってはネット販売専用の型番を設け、価格の競合で問題が起きにくい仕組みとしている。
森課長は「単機能の商品は価格で訴求しなければいけない面もあるが、配送サービスを充実させることなどで、最安値を取らなくても集客できる工夫をしている」と胸を張る。ただ、ここ数年は「宅配クライシス」が起き、運賃高騰だけではなく、集荷してもらえる物量にも制限が生まれている。各店舗が苦労しているのが現状だが、山善では「配送には強みになる要素がたくさんあることに気づき、この1年は差別化ポイントとすべくリソースを注ぎ込んでいる」(森課長)とする。
今後は「あまり人手を割かずに翌日配送できる商品を増やす」仕組みの実現を目指す。現在は、楽天市場の「あす楽」に対応する商品は、人が選んで設定しているという。「なるべく自動的に設定できるようにしていきたい。そうなれば間違いもなくなるし、タイムリーな対応もできる」。
例えば、あす楽対応商品の在庫がなくなった場合、すぐに解除した上で、取り寄せの状態での納期を表示する。あす楽対応商品は、翌日配送に対応した倉庫に商品がある場合に表示している。その倉庫の商品が売り切れて「あす楽非対応の倉庫からは出荷できる」状態になった場合、今は人力での切り替えが必要なため、その間は欠品状態となるため、ロスが生じる。システムで自動的に対応できる状態とすることで、納期に関する表示の精度を高めたい考えだ。
森課長は「実現できれば機会損失がかなり減るのではないか。例えば取り寄せ商品は『準備が整い次第発送します』と表記しているが、アマゾンの当日配送が普及している現状を考えると、多少価格が安いからといってもユーザーは反応してくれない、というのが実感。自動的に切り替えられるようにすれば、別の倉庫から発送する場合の納期がきちんと提示できるわけで、非常に力を入れて取り組んでいる」と説明する。
配送関連では、アマゾンでも「プライムマーク」を18年に取得している。導入後、注文数は大きく伸びており、森課長は「マークの持つ意味は非常に強い」とうなずく。
大きな広告費は投入せず
山善の家電製品は、一般的に低価格で機能を絞った「ジェネリック家電」に分類される。ただ、仮想モール内でもジェネリック家電を販売する店舗は他にもあり、消費者の比較対象となっている。「確かに競合するメーカーは多いが、当社の場合『一番売りたい商品』を決めて、広告やモール内のSEO対策などでアピールする施策をとっている。たくさんの店舗を出店することで、検索上位の結果を専有する方針の店舗もあるが、当社の場合は少数精鋭で、SEO対策に注力するようにしている」。消費者の目に触れるための工夫は店舗によって違うため、一概に「どの手法が正しい」とはいえないが、山善の場合は商品・在庫管理を重視した販促策をとっている。
楽天市場ではクリック課金型の「楽天プロモーションプラットフォーム広告」を、ヤフーの「ヤフーショッピング」では「PRオプション」(販売する商品が売れたら場合に広告料を支払うタイプの広告)をメインで利用している。ただ「他店舗に比べるとそこまで広告費は投入していない」という。森課長は「楽天であれば、楽天カード会員のポイント倍率が上がる『5の倍数の日』、ヤフーであればポイント増量される『5のつく日』に注文が集中する。その日にあわせてクーポンを配布するなど販促費を投入しているが、あまりそれ以外の日については広告費をそこまでかけないようにしている」と明かす。
一方で、新製品発売時には広告予算を増やし、早めに商品レビューを積み上げる戦略を採用している。単に取扱商品を増やすだけではユーザーに気づいてもらえず、ページビューが増えても購入にはつながらない。「立ち上げの準備や、ランディングページの強化は、配送と同じくらい重要視している」。
広告以外では、商品画像の枚数を増やしたり、スマートフォンにおけるランディングページ(LP)の表示を工夫したりといったものだ。現在、スマホからの購入率は80%を超えているという。「LPで写真の順番を入れ替えるといった工夫のほか、スマホ内のリンクやバナーを置く位置などは、ユーザー目線で試行錯誤しながら最適化を図っている」。
アマゾンに関しては、基本的にはアマゾンへの卸販売がメイン。セラー(マーケットプレイス)に関しては、アマゾンへの卸で扱っていないメーカーの商材のほか、セット商品などを扱っている。セラーについては、アマゾンの在庫管理・商品配送代行サービス「フルフィルメント by Amazon」を利用しておらず、アマゾンの倉庫には入れられないサイズの商品やセット商品を販売する。
初の自社サイト開設へ
現在、同社オリジナル商品の売り上げ比率は全体の60%程度。今春にはオリジナルの小型冷蔵庫・洗濯機の販売を開始するなど、これまで取り扱っていなかったジャンルへの進出を開始している。こうした大型家電の場合「設置をどうするか」という問題が出てくる。現在は玄関先での受け渡しとなっているため、卸販売で付き合いのある家電量販店などとの協業を視野に入れながら、設置の仕組みを構築したい考えだ。
小型の冷蔵庫・洗濯機はコモディティー化が進むジャンルではあるが、テレビや調理家電などとのセット販売を実施したところ、新生活需要を取り込めたという。森課長は「(大型家電の設置は)サービスとしては必須なので、早めに形にしたい」と意気込む。
また、同社では自社通販サイトを展開していない。「小売り企業ではなく卸売り企業なので、これまでは(取引先との関係上)作りにくかった。とはいえ、今後は手がけなければ生き残れないのではないかと思っている」。近年は小売りとメーカーの境界線が薄れており、例えば同社の主要な取引先であるホームセンターでも、自社ブランドの取り扱いが増えている。山善ブランドの商品を販売する場を確保するという意味では、仮想モールだけではなく、自由度の高い自社通販サイトの必要性が増してきているわけだ。
自社サイト開設を視野に入れながら、制作・運営の内製化も進める。森課長は「19 年中に(内製化の)プランニングに取りかかれれば」と意欲的に語る。